魔王に転生した世界最強のママ。世界を巻き込んで喧嘩している娘達を”めっ”する

@namari600

ママ、魔王になる。

ママ、神様と出会う

「ヘル様。お時間でございます」

「分かった。すぐに向かおう」


 私は椅子から立ち上がり、壁に立てかけてある黒い杖を手に取る。

 黒薔薇を模した杖に蛇が巻き付いた特注品。

 前世の私なら木の杖で我慢しているところだが、今の私には相応の地位がある。

 見た目だけでも王らしく、ね?

 

「扉を開け」

「「御意」」

 

 魔王城二階、大扉の前に佇む二対のゴーレムが、音を立てて鉄の扉を開けてくれた。

 私の姿が見えたのか、群衆達のざわめきが一層大きくなる。

 それにしても、この土地も随分と再生したものだ。

 最初は荒れ果てた大地しか無かった、なんて今は誰も思っていない。

 それほどまでに、この土地は、国は良い方向に変わった。


——


 私——ヴィナは死んだ。

 殺されたわけじゃない。ただの寿命だ。

 見た目を若く保てても、老いは体に蓄積する。

 後悔は無い。

 愛する娘達に囲まれて死ねたのだから。

 もっとも、世界最強なんて大層な名で呼ばれた私は結婚できなかった。

 六人の娘達は全員養子。仲は良かったよ。

 

「で?神様が私に何のようですか?」

『こ、怖いです……特に目が怖いですって』


 死んだはずの私は、何もない真っ白な部屋に呼び出されていた。

 そこで、私は金髪ロングの若い女——自称神様に出会った。

 神様は懐から一冊の本を取り出し、パラパラとページを捲る。

 タイトルは『世界最強の女』。

 

『これ、全部本当なんですか?』

「……?とりあえず、言ってみてください」


『数多の武闘大会で生涯無敗』


「はい」


『戦場で放った一つの魔法で反乱軍を壊滅』


「帝国の革命軍のことですかね」


『武器に属性を付与する画期的な発明』


「最初に付与したのは椅子でした」


『品種改良の末、冬にも収穫できる作物』


「寒さに強い芋と混ぜました」


『独裁国家を一月で良き為政者の国に』


「教育方針をちょっと変えただけです」


『呪死者が彷徨く街を人が住めるように再生』


「娘達の部屋掃除の方が大変で……」


『数百の病気の治療法を発見』


「そろそろ本題に入ってくれませんか?ただお話がしたかったから呼び出した、そんなくだらない理由なら帰りますよ?」


 私は神様から本を取り上げ、紅の炎で焼き尽くした。

 微かに残った灰が床に落ちる。

 ボソリと少女が呟く。


『……それ、高かったんですよ?』

「知りません。何かを隠している貴方が悪いんですよ?」


 私はギロリ。神様はギクリ。

 やがて視線の圧に耐えられなくなったのか、神様は私に頭を下げてきた。

 床に額を擦り付け、静かに語り出した。


『実は、貴方様の娘様達が……』


 話の流れはこうだ。

 私が死んだ後、あれだけ仲が良かった私の一家は崩壊した。

 どうやら、誰が最も私の後継者に相応しいのか、ということで喧嘩になったらしい。

 流石は私の娘達。争いは三日三晩続き、話し合いで解決できないと判断したあの子達は、大陸各地の国に分散。

 十年の停戦期間に国を自由に発展させ、最後に残った国の導き手が私の後継者、だという。


『というわけで……その類稀なるお力を貸していただけ』

「嫌です」

『な、なぜっ!?』


 額が少し赤くなった神様がひっくり返る。

 短いスカートがひらりと揺れ……白か。

 女の私は特に反応することなく、淡々と答える。


「私はすでに死んでいます。死者が現世に影響を与えることは、神様が許しても私が許せません。諦めてください」

『そ、そんなぁ……』


 神様の瞳にうるうると涙が溜まっていく。

 これが私のいた世界の神……見ていると切なくなってくる。

 大きめのため息をひとつ。

 腕を組んで後ろを向くと、何かが足にしがみついてきた。


「何ですか?」

『——て』

「はい?」


 振り返ると、そこには涙と鼻水でぐちゃぐちゃの神様の顔があった。

 怖っ……いや、それよりも気持ち悪い。

 今すぐに離れ——神様が飛びついてきた!


『だずげでぇぇぇっっ!!!』

「ぎゃぁっ!!こ、来ないでっ!」

『わだしにあのこだちはむり!むりなのっ!』

「ちょ、ちょっと鼻水がっ!私のズボンに鼻水がぁっ!」

『うわぁぁぁぁん!!!』


 号泣した神様をあやすのは大変だった。

 その場の勢いで、自分の娘をどうにかすることを引き受けちゃったし。

 これからどうしよっかなぁ。

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