素質のなかったおにくの話
瀬野荘也
1:素質のなかったおにくの話
青年と肉の国
昔々あるところに、とても強い魔族がいました。
力こそ全ての魔界では、地位も金銭も我がものにでき、美しい魔族たちを奪うことも出来ました。
魔族は多くの子どもを残しましたが、それにかける愛情は持っていません。何人妾がいるのかもわからないくらいです。
数多の命の中、1人の男の子が産声を上げました。
男の子の母は男の子が二桁の年になるまで存命しましたが、男の子が不在の間、他の魔族により殺されてしまいました。
唯一の家族を失った男の子は、家も僅かばかりの財産も奪われ、放浪するしかありません。
幸か不幸か、父親の力は少しばかり受け継いでたので、労働の手伝いや用心棒をして、何とか青年にまで成長しました。
さて、根無し草のように過ごしていた青年ですが、幾ばくかの時間が経つと居を構えようと思いました。
近くに訪れた国に入ると、家は簡単に手に入ると聞きます。
「しかしね旅人さん。いや同胞となる者よ。
この国で家を持つにはひとつ注意が必要だ」
家の手続きをする際に、役人からそう言われます。
「家を手に入れたのなら、それを保持する権利を国から継続して貰わなければならない。
所謂、税のようなものさ。それを払えないと、お前は直ぐにこの国を追い出されるよ」
「金か。ならなんとか稼ぐ方法がある」
ここまで旅を重ねてきただけあって、青年の腕には覚えがあります。
「ちがう、ちがう。この国で収めるのは金じゃない。
この国で収めるのは、肉なんだ。牛や羊じゃないぞ。魔族の肉を献上するんだ」
話を聞けば、この国の王は色欲と食欲の権化のようで、美しい魔族を抱くことや育てられた若い魔族を喰らうことに夢中なのだとか。
青年は少し訝しみましたが、力こそ全ての魔界です。倫理などあってないような世界故、それもまたひとつの形と受け入れざるを得ないのが事実と言えるでしょう。
「なに、そう難しいことは無い。ここでは献上用の肉を販売する店も多くある。そこで良い魔族を手にすればいい」
役員は親切にも、いくつかの魔族販売店を紹介してくれました。
「助かるよ」
「なに、大したことは無い」
青年は礼を言うと、さっそく魔族を買いに向かいます。
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