夢のような夜に

白雪れもん

第1話夢の始まり

夜の帳が降りると、世界は静寂に包まれる。星々が瞬き、月の光が優しく地面を照らす。日向颯はいつものように、学校の宿題を終えた後、疲れた体をベッドに沈めた。彼の部屋には、懐かしい音楽が静かに流れ、部屋の灯りもほのかに消えていた。目を閉じると、颯は自然と夢の世界へと導かれていく。

目を開けると、颯は自分が見知らぬ場所にいることに気づいた。そこは広大な庭園で、色とりどりの花々が咲き誇り、さわやかな風が頬を撫でる。空には美しい夕焼けが広がっており、まるで幻想のような景色が広がっていた。

「ここは…どこだろう?」颯は呟きながら、周囲を見回した。その時、ふと彼の目に留まったのは、庭園の中心に立つ一人の美少年だった。彼は白い服を纏い、風になびく髪がまるで流れる水のように美しかった。

「こんにちは。」颯は少し緊張しながらも声をかけた。その美少年がゆっくりと振り向き、優しい笑顔を浮かべた。

「こんばんは。僕は高原悠人(たかはら ゆうと)。君がここに来るのを待っていたよ。」

「高原悠人…?」颯はその名前に聞き覚えがなかったが、なぜか悠人の存在がどこか懐かしいと感じた。

「うん、君の夢の中にしか現れない存在なんだ。」悠人は穏やかに答えた。「君の夢の世界を少しだけ見せてもらうつもりだった。」

颯は少し戸惑いながらも、悠人と一緒に庭園を歩き始めた。彼らは色とりどりの花々を鑑賞しながら、自然と会話が弾んでいった。悠人の話は興味深く、颯は彼の語りに引き込まれていった。

「君が夢の中で過ごす時間は、現実の世界とは違うから、ここでは全てが可能なんだ。」悠人は優しく語りかけた。「自由に想像して、楽しんでほしい。」

颯は悠人と過ごすうちに、現実の疲れがすっかり忘れられた。夢の中の悠人は、颯の心を穏やかにし、彼の思考を解放する存在だった。彼らの会話は夜遅くまで続き、やがて夢の中の時間が流れるのが早いことに気づいた。

「そろそろ、君の現実の世界に戻る時間だね。」悠人は少し寂しそうに言った。「でも、心配しないで。夢の中でまた会えるから。」

颯はその言葉に心を打たれた。「ありがとう、悠人。君と過ごした時間は、現実よりもずっと素敵だった。」

「それは良かった。」悠人は微笑みながら、颯の手を軽く握った。「また会おうね。」

そして、颯は目を閉じ、ゆっくりと現実の世界へと戻っていった。朝の光が部屋に差し込み、目を覚ますと、颯はベッドの上で目を開けた。夢の中の悠人のことが、現実の世界にぼんやりと残っていた。

「また夢の中で会えるといいな。」颯は心の中でつぶやいた。彼はその夜、悠人との再会を心から願いながら、日常の生活に戻っていった。

日向颯は再び夜が訪れるのを心待ちにしていた。前回の夢の中での悠人との出会いがあまりにも楽しかったので、彼は今度はどんな面白いことが待っているのかとワクワクしていた。

「さあ、今夜も夢の中で悠人に会えるかな?」颯はベッドに横になり、目を閉じた。

しかし、今夜の夢は少し変わっていた。颯が目を開けると、目の前に現れたのは巨大なカラフルな風船と、何やら奇妙な衣装を身にまとった悠人だった。悠人は、まるでサーカスのピエロのような派手な服装をしていた。頭には風船でできた帽子が乗っており、目の前にはまるで大道芸人のような大きな笑顔があった。

「こんばんは、颯!」悠人は元気いっぱいに手を振った。「今日は特別なショーを用意してみたんだ!」

「え、え?これは一体…?」颯は戸惑いながらも、目の前の奇妙な光景に思わず笑ってしまった。

悠人はパフォーマンスを始めた。風船を使っていろいろな動物を作りながら、颯に見せてくれた。しかし、どれもこれも奇妙な形に作られており、例えば「風船のカメレオン」は、色とりどりの風船が混ざり合い、ただの風船の塊になっていた。

「これがカメレオン?どう見ても風船の塊なんだけど…」颯は笑いをこらえきれずに言った。

「まあまあ、気にしないで。」悠人は楽しそうに言った。「これは夢の中だから、普通のことなんだよ!」

その後も、悠人のパフォーマンスは続き、今度は風船で作った剣を持って「冒険の旅」に出かけると言い出した。颯も一緒に「冒険」をする羽目になり、気が付くと、二人は夢の中の冒険ランドで怪しい風船のモンスターと戦っていた。モンスターは実際には風船がただ動くだけのものだったが、悠人はその動きをまるで本物のモンスターのように振る舞っていた。

「避けろ、颯!風船モンスターの攻撃だ!」悠人は声を張り上げた。

「ちょっと待って!こんなモンスター、現実で見たことないよ!」颯は大笑いしながら避けた。

冒険の最後には、二人が大きな風船のトンネルを抜けると、そこには「巨大な風船ケーキ」が待っていた。悠人は嬉しそうにケーキに手を伸ばし、颯もその楽しさに加わった。風船ケーキを食べながら、二人はこれまたおかしなダンスを踊り始めた。ダンスの途中で風船の一部が破れてしまい、二人は風船の破片に囲まれながら、さらに大笑いした。

「こんな夢、他の誰にも経験できないよね!」颯は笑いながら言った。

「そうだね、夢だからこそ楽しめるんだよ。」悠人はニコニコしながら答えた。「それに、君が楽しんでくれると、僕も嬉しいよ!」

夜が明ける頃、颯は夢の中での大冒険を楽しみつつ、少し名残惜しさを感じていた。目を閉じると、悠人はまた軽く手を振りながら言った。

「おやすみなさい、颯。次はどんな冒険が待っているのか、お楽しみに!」

颯は笑顔で目を覚まし、現実の世界に戻った。夢の中の楽しさがまだ心に残っており、次の夜が待ち遠しくてたまらなかった。



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