とある郷土研究家の話
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霧に消えた村1
私は藤井健一、郷土研究家として地方の歴史や伝説を調査している。
今回の調査は、「霧谷」という伝説の村だ。
かつて、村が霧に包まれて消えたという話がある。
地元の人々はその伝説を信じており、「霧谷には近づくな」と警告している。
霧谷を訪れる前に、地元の図書館でいくつかの古文献や記事を調べたが、具体的な位置や詳細な情報は見つからなかった。
地図に記された場所には、ただの山道としか書かれていない。
こうして霧谷の謎を解明するため、私は車を走らせる決心をした。
到着したのは昼過ぎ。霧が立ち込めていて、視界は数メートル先までしか見えない。車から降り、霧の中に一歩踏み出すと、冷たい湿気が肌にまとわりついてきた。
靴の下に踏み込む感触は、泥濘んでいて不快だ。
霧の中の静寂が、逆に不安を煽る。
古い家屋の跡や、草に覆われた道を歩きながら、周囲の風景を確認する。
ところどころに朽ちた木々や崩れた石垣があり、かつての村の名残を感じさせるが、どこか不自然な静けさが漂っている。
特に異常を感じるほどではないが、どこかおかしな気配がする。
ふと、霧の中に古びた石碑が見えた。
近づくと、その石碑には「霧谷村」と刻まれているが、文字が風化していて読みにくい。
じっと見つめていると、またしても微かに人の声が聞こえてきた。
声は遠くからかすかに響き、「助けて…」という声が霧の中から漏れてきた。
心臓が急に高鳴り、周囲を見回すが、誰も見当たらない。
声の主を探そうと霧の中に進むと、またもや不意に人影が現れては消えてしまった。影はあまりにも瞬時に消えてしまい、幻覚かもしれないと考えた。
だが、霧の中で迷子になりそうな感覚が強くなり、冷や汗が背中を流れた。
次に見つけたのは、小さな祠だった。
香炉の上には灰が積もっており、かつてここで何かの祈りが捧げられていたことを示していた。
祠を調べていると、またもや霧の中から声が聞こえた。
「ここに…」というかすかな囁きが耳に入る。
振り向いても誰もいない。
霧が深く、声の方向も分からなくなってしまった。
祠を離れ、広場に向かうことにした。
広場には一本の大きな樹木が立っており、その樹木の幹には「霧谷の呪い」と刻まれているようだった。
文字は朽ちていて、すべてははっきりとは読めなかったが、確かにその言葉が目に入った。
その瞬間、霧の中から「もうすぐ…」という声が響いてきた。
私は恐怖で体が硬直し、急いで車に戻ることにした。
道を辿りながら霧の中に振り返ると、霧がまるで生き物のように動き回り、村全体を包み込んでいるのが見えた。
車に乗り込み、エンジンをかけた私は深呼吸をしながら霧谷を振り返った。
私の心には、あの霧の中で体験した恐怖と不安が深く刻まれていた。
帰路に着くとき、私はあの霧谷の伝説が単なる噂でないことを確信した。
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