柳の下

千瑛路音

柳の下

 ちょうど、空気が生暖かく、風が吹いてくるがあまり涼しくならない。

むしろ顔に触れると何か気持ち悪い。そんな、道中だった。


舗装されてなく、ほこりっぽい黄色の道をのそのそと進んでいく。そばには小川が流れているが、まるで流れを感じさせない。凪のようだ。


ふと気づくと、前方に柳の木が川べりにポツンと立っていた。

特に気にしていなかったので、そこに何かがあるのに気づくのが遅れた。


柳の木がある方向にえっちらおっちらのたのたと歩いていくと、柳のちょうど中間あたりに何かうようよと白いものがうごめいていることに気づいた。


気づくと気になり始め、それに注意しながら少しずつ近づいていった。


それは手だった。とても白く細い女の手であった。しかし、あまり健康的ではないむしろ病的な青白い手であった。


その手が何やらこっちへ来いこっちへ来いといった具合にひらひらとゆっくり手を動かしているのだ。


薄気味悪かったが、道中でさけることもかなわず、そして、目をそらすこともできずずるずるとそれへと近づいていった。


本来なら、それを無視して目的地へと急ぐべきだったのだが、どうしても正体が知りたくなった。


柳の木のすぐそばまで来ると、意を決して、ザっと柳の裏を見てみる。と、周りに目を凝らしても何もいない。不思議とさっきまで動いていた女の白い手も消えて見えなくなっていた。


たまげて、注意深く見て回ると、その柳の裏のちょうど女がいたであろう地面が水のたまりとなっていた。


                               おわり

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柳の下 千瑛路音 @cheroone

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