第5話 急襲
「船頭、やっぱたけーよ」
「この状況だ。文句言うな」
「何とかなんねーの?」
「なら泳ぐか歩いて行くんだな」
「けっ。報酬に船賃上乗せすっか」
ルーのチームは東野湖畔に着くと対岸行きの船を探したが、皆ドラゴンを恐れて断り、今乗っている船の船頭だけ承諾してくれたのである。
但し危険なので船賃は普段の10倍になり、しかし他に当てが無い為条件を飲んだのだった。
「ペガサスは高いよな~」
拾い集めた小石で水切りしているのはドワーフの投げナイフ士だ。
「バーカおめえちっちぇーから乗れないだろ」
ナイフ士は頭まですっぽり覆う黒のローヴを着た、少年のような風貌の人間の小男を睨んだ。
「あ?舌ちょん切って食わせるぞ」
「やってみなチビ助」
「ふぉら、喧嘩しらいお」
胡坐をかいて弓でトントン甲板を叩きながらエルフの女性が言うと、ナイフ士と小男は鼻をつまんだ。
「ヴィスキ、酒飲み過ぎ」
「ひょってにゃいうぇ。ヒック」
「命中率1割未満女が」
小男の罵声を無視して、ヴィスキは左手に持つ革袋を上げて果実酒を飲み干した。
「うあーわ。もーらくなっひゃった。またくぁい足そ」
その様子を横目で見ていた船頭がルーに囁く。
「いつもあんなのか?」
「しょっちゅうさ」
「よく仲間割れしないな」
「だから最強なんよ」
「ほう?」
「おいズッキ。いつもの景気付け頼むわ」
「押忍」
ズッキと呼ばれた小男は懐から魔法杖を出すと、左前方の岸壁に真っ直ぐ伸ばし、電のような黄金色の攻撃魔法を放出した。
岸壁は発破したように大爆発を起こし、無数の砕石が美しい湖に雪崩れ込む。
船頭が呆れて首を振った。
「悪趣味だな」
「だから何?楽しいっしょ」
「迷惑だね」
「言われた事ねーけど?」
「誰も言わないだけさ」
直後にヴィスキのゲエゲエえずく声につられてルーが顔面蒼白になった。
「外に吐いてくれよ」
船頭の警告に、ヴィスキは船べりの外に顔を出すと、胃の中身を透き通った湖面にぶちまけた。
「こいつ突き落としたいぜ」
そうぼやくナイフ士も蒼い顔で船べりにもたれている。
と、ヴィスキの正気に戻った声が、
「ねえ、ここ深いの?底が暗いわ」
「300頭身くらい」
ヴィスキがボーっとした表情で船頭を振り返る。
「測ったの?」
「いや。馬鹿な魔法使いが潜って調べてね」
「凄い。勇気あるわね~」
「20年前から上がって来ない」
「…あ、ふーん」
また湖面を覗き込んだ瞬間、ドラゴンの開いた大顎が飛び出してヴィスキの頭をねじ切った。
続く
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