第2話 惨劇の始まり
山道を歩く2人の男がいる。
1人は長髪で、もう1人は小太りだ。
「おい、いつ村に着くんだよ!」
長髪が小太りに苛立っているようだ。
小太りは歩きながら肩をすくめて、
「君は忍耐が足りないよ!」
「うるせえこら!お前が道を知ってるっつうから案内人無しで山に入ったらこのザマだ!あ~、村の姉ちゃんのガイド欲しかったぜ全く!」
「ごちゃごちゃうるさいってば!」
たまりかねた小太りが振り向いた。「ちょっと迷ったからって文句ばっかじゃないかあーたは!」
「おい、俺はおめえと友達になった事を後悔し始めてんだぞ!」
「今日会ったばっかじゃないか」
反省の色を見せない小太りに、長髪の癇癪が爆発した。
「黙れ!黙れ黙れ黙れ!もういい!お前とは絶交だ!ええい、こんなところにいてられるか!俺1人で道を探すぞ!」
顔を真っ赤にしながら長髪は小太りを押しのけるように先に歩いて行こうとした。
「おい待てってば!」
小太りも後を追いかけようとした直後、2人の後ろで何かが落ちるドサリという音がした。
振り向くと、それはドラゴンだった。
紫のオーラに全身が包まれており、血塗れの口を半開きにこちらを見ている。
「ド、ドラゴン・・・!」
小太りが怯えた声で言った。
「チクショウ!お前のせいだぞ!お前のせいで・・・!」
半狂乱になった長髪が小太りを置いて走り出すと、ドラゴンがジャンプして長髪の前に立ち塞がった。
「うわ!うわうわ、うわ・・・!」
長髪は2、3歩あとずさりしたが、ドラゴンの両顎が彼を捕らえた。
閉じられた両顎の隙間から飛び出た長髪の手足が力無く垂れ下がっているのを見た小太りは、ショック状態からやっと自分の置かれた立場を認識する。
「う、うわああああああ!」
小太りは180度方向転換して、両腕を振り回しながら走り出した。
だが山道をだいぶ長い事歩いていたせいか、スピードが出ない。
それでも必死に走る彼が見た最後の光景は、こちらに向かって閉じて来るドラゴンの上顎の内側だった。
長髪が言っていた村はさほど遠くない所にあった。
村では何かお祭りをやっているようで、若い娘達が広場で村人に囲まれながら笛や太鼓の奏でる音楽に合わせ、笑顔で踊っている。
やがて音楽が止まると、踊りが終わったようで、娘達は村人達とハグしながら解散した。
その中で2人の娘が、森の中に入るなり笑顔から一転、苦々しい表情に変わる。
「あー、だっさい音楽にだっさい踊り!男が気安く触ってくんじゃないわよ!」
背の高い方が遠慮なく毒を吐くと、背の低い方も腰に手を当てながら何度も首肯する。
「ねー。早く首都に行きたいわ」
「首都ってラグモ市だっけ?」
「そうそう。立派なお城もあって、何度も揃ってるの!」
「こんなちんけな村に居てたら息が詰まりそうだわ!」
「あー、早くお金貯めて、こんな村さっさとおさらばしたいなあ!」
「ちげえねえ!」
背の高い方が男口調を真似てダミ声で言うと、2人は同時に笑い出した。
が、その笑いが不意に止まり、表情が凍り付く。
2人の目の前に紫のオーラを纏ったドラゴンがいつの間にか立っていた。
あまりの恐怖に物も言えず立っていると、ドラゴンが吼えた。
血生臭さ混じった臭気が撫でると、2人は悲鳴を上げながら逃げ出そうとした。
が、ドラゴンは鼻先で背の高い方の背中を突っついて転倒させると、両足ごと噛みついた。
「ミニ!助けてええええええええ!!!」
ミニと呼ばれた背の低い方は立ち止まって振り向くと、引きずられていく背の高い方が助けを求めて差し出す両手を掴んで引っ張った。
「テル!ダメよ!」
テルと呼ばれた背の高い娘は、痛みと恐怖で顔を歪めながら何度も叫ぶ。
ミニも離すまいと、必死に力を込めて友達を引っ張る。
だが、ドラゴンと人間の娘の綱引きの力の差は一目瞭然だった。
不意に力の均衡が破れ、テルは尻餅を突いた。
彼女はまだテルの両手を掴んでいる。
「早く、今の内よ!」
しかしテルはぐったりとして顔も上げない。
違和感を感じて視線を上げた瞬間、ミニは目を見開いて絶叫した。
テルの下半身は食いちぎられており血の海だった。
そしてその下半身は既にドラゴンの腹の中に納まっていた。
ドラゴンがガウガウと唸りながらミニとテルの死体に向かって歩いて来る。
ミニは立ち上がろうとしたが、テルの死体が自分の足の上に重しとなってすぐに抜け出せなかった。
もたもたしているうちに、ドラゴンがミニに覆いかぶさるように立つ。
ミニはまた絶叫したが、すぐに止んだ。
森の中にドラゴンの雄叫びが響き渡り、驚いた鳥達が空に舞い上がる。
続く
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