黒いボックス

桐崎りん

黒いボックス

きゃっきゃ


制服を着た女子高校生が2人、正方形の黒いボックスに入っていく。


ここは、ある町の一角。


この町は、このボックスが出来てからとても有名になり、全国でも有数の観光地にまで登り詰めた。


このボックスの中に入ると、目の前にカメラとモニターが付いている。


カメラに写された人物をある科学者が開発中のAI「みえる」が瞬時に分析し、その人物のことを言い当てるのだ。


SNS上には


「『野菜嫌いをなおしましょう』って出たんだけど、なんで見た目だけでわかるの笑笑笑 やばいよ、このAI笑 しぬ笑」


「そろそろ好きな人に結婚を申し込もうと思ってたのね。例の「みえる」に今日入ったら『はやく結婚しろ』って言われた笑笑」


「『テストで24点』言い当てられた笑」


など、#みえる と共に多数投稿されている。


今日も「みえる」には行列が。


みな、自分がどう言い当てられるのか、ワクワクしながら待っている。


あなたもその列に並んでいた。


朝、いつも通りに起きると、『先生の体調不良多数により休校します』のメールが。


あなたはすぐに新幹線の予約を取り、ずっとずっと憧れていた「みえる」へ。


10時ごろに「みえる」に着いたが、その時には路地は人で埋め尽くされていた。


真冬の2月17日。


セーターの上にふわふわのベスト、その上にジャンバーを着ていたが、それでも時折り吹く風がとても冷たく、その度にブルブル震えた。


でも、どんなに寒くても凍えそうでも、帰ろう、とは思わなかった。


むしろずっと憧れていたものに、もうすぐ入ることができる、という期待感、ワクワクする気持ちで頭の中は一杯だった。


どんなことを言われるのだろう。


じわじわと列が進んでいく。


あなたの前には男性が2人。


「次なんだけど笑」


「やばい笑」


「急に帰りたくなってきたわ笑」


「怖いよな笑」


「何言われると思う?笑」


「『あなたの後ろに…』なんて言われたらめっちゃ怖い笑」


「うわ、今ゾワっと来たわ笑 やめろよな笑」


「ごめんごめん笑」


どこまでも元気である。


男性の前に入っていた女性が泣きながら出てきた。


2人の男性もあなたも、その女性を2度見した。


一体何を言われたのだろうか。


男性らは「え?怖い笑」「え?」という声を出しながら、黒いボックスに消えていった。


次は、ついにあなたである。


早く入りたい、という気持ちをぐっと抑える。


次は、次は。


男性2人が早々にボックスから出てきた。


あなたは、はやる気持ちに背中を押され、すぐにボックスに駆け込んだ。


中は黒一色。


目の前に畳一枚ぐらいの大きさのモニターと、言われないと防犯カメラと勘違いしそうなカメラ。


想像していたよりもずっとシンプルだった。


機械音がヂヂ…と聞こえる。


周りを見ても真っ黒な壁があるだけ。


ライトもモニターの前の一部分を照らしているだけだった。


あなたはモニターの前に行こうと、足を一歩、また一歩と動かした。


ライトの真下に来た時、モニターが白色に光った。


そして


『わたしの探し物』


と表示された。


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黒いボックス 桐崎りん @kirins

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