第4話 光の罰

 全てを諦めた僕だったけど、まさに殴られようとしていたそのとき、信じられないものを見た。


 それは点滅する無数の光だった。あの小川から、たくさんの光る玉が飛び出したのだ。それは何年も前に見た、ホタルの群れにそっくりだった。


 黒い夜空の下で、光る玉が辺りを覆い尽くした。それらの大群が……、三人組に向かってきた!


 光にまとわりつかれた三人組は、うわっーっ、うわーっ、と叫びながら暴れている。光の大群を振り払おうとしてるんだろう。でもそれは無駄な努力だった。ますます多くの光が、彼らに集まっていく。


「やめろ! やめてくれ!」

「助けてくれ! 誰か!」


 鱗のようにびっしりと光をくっつけた三人組は、そう叫んで走り去っていった。


 僕はもう、何も考えられなかった。ただ放心状態で、そこに立っていた。


*****


「あの三人さ、今どうしてるの……」


 あの事件の後から何日かして、僕は聞いてみた。あの件のことを兄ちゃんと話すことには抵抗があったけど、それでもあんな目に遭った三人がどうなったのかは知りたかった。


「病気で入院したらしくて、ずっと学校休んでるよ」


 兄ちゃんは案外しれっと答えた。当然だ。あの三人組が光に襲われた現場を、兄ちゃんは見ていないんだから。僕は奴らに殴られたことを言っていないから、兄ちゃんが知ってるのは「盗み聞きしていた弟がいじめグループに追いかけられたけど逃げ切った。その後なぜかいじめグループは入院して学校に来ていない」ってことだけだ。多分兄ちゃんは怪しんでると思うけど、怪しんだところで何の答えも出てこない。


「ホント、危ないことしないでくれよ、勇貴ゆうき。マジで心配だったんだから」

「ごめん……」

「でも心配してくれてありがとうな」


 兄ちゃんの言葉に、僕の心は温かくなった。


 その日の午後、僕は再び、あの祠の前に立った。多分、僕はこの祠のぬしか何かに助けられた。そのお礼参りだ。正直なところ、怖くてもう来たくない場所だった。でもお礼を言わなきゃ僕も怖い目に遭わされそうだったから仕方ない。


「助けてくれて、ありがとうございます」


 小声でつぶやいて、深くお辞儀をした。そのとき、一瞬のうちにフッ、と、空気が変わった気がした。何と言い表したらいいのかわからないけど、「空気が変わった」としか言いようがない。


 人の気配がする。驚いて振り向いた僕は、さらに驚かされた。夢で見たのと全く同じ、あのきれいな顔の男の子が立っていた。さらさらとした髪の毛が、冷たい風に吹かれて微かにそよいでいる。


「勇気を見せてくれたね」


 透き通るような声だった。聞いていて、とても心地良いような……


「僕たちは勇気ある魂が好きだよ」


 男の子はゆったりとした足どりで、こっちに歩いてくる。


「僕たちは滅んでしまって、もう何も楽しみがないんだ。だから……」


 男の子が、僕の方へ手を伸ばす。冷たい掌が、僕の胸に触れる。


「もっと楽しいことさせてよ」


 そのとき、僕は意識がくるくると消えていくのを感じた。

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