第35話 待ち合わせは特別な時間

 クリスマス当日。私は朝早くに起きて、今日、着ていく服を決めていた。


 奏翔との初めての休日デート。今まで2人で出掛けることはあっても休日に2人で会うのは初めてだ。


 紗希さんにもらった服は生地が薄いので寒い今日に着ていく服ではないのでやめておく。昨日、クリスマスイブに着ていた服は他に服はないのかと思われてしまうのでなし。 


「これ……かな」


 いろいろ服を組み合わせて考えた結果、奏翔に可愛いと言ってもらえるような服を着ていくことにした。


 服が決まると化粧をし、髪をふわふわにするためにアイロンで巻いた。


 最後に気に入っている白のベレー帽を被り、誕生日の時、奏翔にもらったブレスレットを手首につけた。


 失くしたくないからつけてこなかったけれど、明日は特別な日。奏翔とデートなのだからつけていくことにした。


 準備ができると鏡の前に立ち、全身を見て、おかしなところがないかチェックする。


(奏翔、最近何かに悩んでるみたいだし、今日は楽しんでほしいな)


 鞄を持ち、自室から出ると玄関で靴を履いた。お母さんとお父さんは先に家を出て、家にはもう誰もいないが、「行ってきます」と行ってから外に出た。


 外に出ると冷たい風が吹き、鞄に入れていたマフラーを首に巻く。


「寒い……」


 早く建物の中に入りたいと思いながら歩いていると勝手に早歩きになる。


 奏翔と待ち合わせ場所は駅だ。集合時間30分前ぐらいに着くように家を出たが、このスピードで歩いたらおそらくそれよりも早く着くかもしれない。


 そしてその予感は当たり、駅前にかなり早く着いた。駅前はクリスマスツリーがあり、夜になったら光るそうだ。冬休みも始まりいつもより人が多い気がする。


 ぐるっと周りを見回し、スマホで時間を確認したが、まだ集合時間まで時間がある。奏翔が来るまで寒いところで待っていたら凍ってしまいそうなので、近くにある雑貨屋に入る。


 私が駅前にいないと奏翔はずっと待っていることになるので雑貨屋にいることをメッセージで伝えた。


 買うものがあるわけではないが、雑貨屋へ入ると見覚えのある後ろ姿に気付く。


(もしかして……)


 エプロンをつけていたので仕事中だということがわかった。ここでバイトをしていたとは知らなかった。


 人違いかもしれないが私は邪魔しないよう近づき、顔が見える位置に移動した。すると相手も私のことに気付いた。


「か、神楽さん?」

「! み、見つかった……」


 目が合った瞬間、隠れようとしたが、ここで働いていた横田くんにバレてしまった。バレてしまった以上、隠れる必要はないので横田くんの近くへ行く。


「バイト?」

「うん、春からやってて。陽菜にしか教えてなかったんだけどまさか神楽さんに見つかるとは」

「……ごっ、ごめんなさい」

「謝らなくても。隠してたわけじゃないから」

「そ、そう? ところでクリスマスだけど、陽菜とは一緒にいないの? クリスマスは会う約束をしてるって陽菜から聞いたけど」


 以前、クリスマスはどう過ごすのかと話になったとき、陽菜は横田くんと過ごすと言っていた。


「陽菜とは午後から会うんだよ。朝はバイト」

「そうなの……バイト、頑張ってね」

「うん、ありがとう。神楽さんも頑張って」

「?」


 何を頑張るのだろうかと思いながら横田くんと別れ、店内を見て回る。


 誰かと待ち合わせする時間はいつもワクワクして私は好きだ。今日は特にワクワクしている。だって、奏翔と水族館デートだから。


(香水ちょっとつけてきたけど、気付いてくれるかな)


 服、帽子、髪、ネックレスと気付いてほしいところはたくさんあるけど、可愛いと思ってほしくて全てやっていることだから奏翔に可愛いと思わせれたらそれでいい。


 スマホの画面を見ると『駅に着いたよ』というメッセージが来ていたのに気付き、私はお店の外で待つことにした。



***



「ん、これか?」


 美月との水族館当日。朝から服装に悩みまくり、鏡で何度も確認していた。するとそれを見ていたお母さんに笑われてしまった。


「美月ちゃんとのお出かけだからちゃんとした服で行きたいのはわかるけど、集合時間に間に合わないなんてことにはなってはダメだからね」


「わかってるよ。早めに家出るつもりだから」


 彼女の持ちの大智に聞いたことがある。女子との待ち合わせは必ず遅れは厳禁だって。まぁ、俺は誰であっても待ち合わせに遅れたことはないから大丈夫だ。


 服が決まり、クリスマスプレゼントを入れた鞄を持つと玄関へ行き、靴を履く。


 行ってきますと言ってから家を出ると待ち合わせ場所である駅の方向へ向かって歩く。


(ケーキを作ってみたけど、美月に食べてもらうには水族館の後に家に寄ってもらうしかないよな)


 持って来ることもできたが、水族館に行くのにケーキを持っていくと邪魔にしかならない。それにケーキは美月と一緒に食べたい。


 ケーキのことを考えながら歩いているとケーキ屋さんの前でケーキを見ている陽菜を見かけた。


 ロングコートにモコモコのブーツを履いた彼女がいつもよりオシャレなのはおそらくこの後にある大智とのデートのためだろう。


 集合時間までまだ少し時間があったので、声をかけることにした。


「陽菜」

「おっ、奏翔! 今日はみーちゃんと水族館デートだっけ?」

「まぁ……うん。美月から聞いたのか」

「みーちゃん、超楽しみにしてたみたいだから悲しませるようなことしないようにね。まぁ、奏翔がそんなことしないってわかってるけど」


 笑顔で親指をぐっと立てた陽菜はそう言って俺の背中を優しくトンっと叩いた。


「後日、水族館デートがどうだったのか教えてね。気になるから」

「話せるような何かあればな」

「うん。じゃ、お互いクリスマスを楽しもうじゃないか」

「あぁ、お互いな」


 陽菜と別れ、スマホの画面を見ると美月から『駅前の雑貨屋にいる』というメッセージが来ていることに気付いた。


「早い……集合時間間違えてないよな、俺……」


 駅まではすぐそこなので、早歩きで向かい、着くと『駅に着いたよ』と美月にメッセージを送った。


 既読が付いたのを確認後、雑貨屋へ向かうとそこから出てくる美月の姿を見つけた。そのタイミングであちらも俺のことを見つけ、そして駆け寄ってきた。


「美月、おはよう」

「奏翔、おはよ。服、カッコいい」

「ありがとう。美月は可愛いよ。服、大人っぽくて似合ってる」


 正直に思ったことを伝えると美月は白のベレー帽で目を隠した。


(照れてるのも可愛い……)


 昨日と同じで彼女は髪の毛を巻いており、ふわふわで可愛かった。お気に入りの帽子も似合っていて、いつもと違う雰囲気にドキッとしてしまう。


「奏翔、今日はデートだから手繋いでもいいよね?」


 俺にそう尋ねてまだ答えていないが美月は手を繋いできた。


「もう手繋いでますけど……」

「ふふっ、我慢できなかった。最近、奏翔不足でして」  

「それは深刻な問題だな」

「でしょ?」


 大丈夫。いつも通りに話せている。好きだと自覚してからくっつかれると意識して上手く話せなくなるから。




 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る