第38話
悠太が真奈と話すと言った二日後、真奈は登校した。
羽菜は嬉しかったが、話しかけることはできずチラチラと真奈を気にしながら一時限目に入った。
真奈も羽菜と話がしたい様に見えたが、悠太から事前に「黒木から話しかけられるまで、待ってあげてね」と言われていたため、待ちの状態だった。
最後に会った真奈とは雰囲気が違っており、穏やかな空気を纏っていた。
きっと悠太が話し合いをしたからだろうと、羽菜は思った。
しかし、何故あんなにも切羽詰まっていたのか。
悠太からは、勉強に必死だったからと言われたが本当にそれが原因なのだろうか。
あのときの真奈は、羽菜に不満を持っていたように思う。真奈が声を荒げたことに呆然とし、何を言われたのかあまり覚えてはいないが、羽菜は真奈に不満を持たれていることを察した。
真奈が真剣に授業を聞いている姿を眺め、自分が何か気に障ることをしてしまったのでは、とそんなことばかり考えていた。
授業が終わり、お昼休みに突入すると真奈は真っ先に羽菜の席へ近寄った。
「羽菜ちゃん、お昼ごはんは空き教室で食べよう」
「うん、いいよ」
にこりとも笑わない真奈に連れられ、空き教室へ行った。
二人並んで椅子に座り、お弁当を広げる。
何を言われるのか見当もつかない羽菜はどきどきと変に鼓動がはやまるのを感じながら真奈の言葉を待った。
真奈はなかなか喋らなかった。羽菜は真奈が喋るのを待った。
お弁当の半分を食べ終わったとき、ようやく真奈は口を開いた。
「この前は、ごめん」
気まずさからか、羽菜の顔を見ることができず、箸で掴んだ卵焼きを見つめる。
羽菜は真奈が話してくれたことが嬉しくて「ううん、大丈夫だよ」と優しく答えた。
「あの、ね」
「うん」
「言い訳なんだけど、わたし最近授業についていけなくて」
「うん」
「羽菜ちゃんと悠太は昔から勉強ができてて、順位も高くて。大河も勉強なんて全然興味なかったのに、勉強頑張ってて」
「うん」
「わたしだけ、できなくて。でも頑張らないといけなくて、でもついていけなくて。そうしたら心に余裕が出来なくて、酷いこと言った」
理由はそれだけではないが。
「私の方こそ、ごめんね。真奈ちゃんのこと分からなくて」
ここでも優しさを発揮する羽菜に、胸はむかむかする。
どうしてそんなに良い子なの。そういうとこが、嫌い。
唇をきゅっと噛みしめて、息を吐く。
「実はね、わたし、大河のことが好きなの」
「…え、え?」
突然の告白に真奈をじっと見つめる。
真奈ちゃんが大河くんを好きって、どういうこと。いつから。
羽菜を守り、大河を蹴散らす真奈の姿が不意に浮かんだ。しかし、真奈が大河を思う姿は想像できなかった。
「これ、あんまり人に言いたくなくて黙ってたの。だってわたしが大河のこと好きって、おかしいでしょ。今まであんなに突っかかって喧嘩とかしてたのに、好きって」
「え、う、うん…」
まさに寝耳に水。
ポカーンと口を開けて真奈の口から出る言葉にどう反応していいか分からない。
色々聞きたいことはあるけれど、そんな雰囲気ではない。
「わたし、こんな感じでしょ。だから悠太にも色々相談に乗ってもらったりして」
「そうだったんだ」
悠太くんに相談してたんだ。私じゃなくて。
少しだけ、胸が痛かった。
「でも、大河は羽菜ちゃんにばかり構うでしょ」
「か、かまう?」
「それがちょっと、面白くなくて。それに勉強もしないといけないし、だからこの前、羽菜ちゃんに八つ当たりしちゃって」
なるほど、そうだったんだ。
悠太からは勉強が原因だと言われたが、それだけではないと思っていた。
あのときの真奈は羽菜に不満をぶつけようとしていた。その不満が、今話した大河とのことだったのだろう。
ようやく原因が分かり、少しスッキリした。
「わたし、こんな性格だから、誰かに恋愛のアドバイスとかもらいたくなくて」
真奈は強気な性格である。そのため、人からの助言等を有難く受けることはない。
羽菜もその辺りはなんとなく察していた。プライドが高いとも思っていた。
だから羽菜に相談をして、羽菜からアドバイスを受けたりすることが嫌だったのだろう。
「それに、大河は羽菜ちゃんのことをいじめてたし、余計に言いにくくて」
「私はそんな、全然!」
「悠太はまあ、羽菜ちゃんとも大河とも仲が良いし、まあ、成り行きで相談するようになって」
自分に相談するよりは悠太に相談する気持ち、よく分かる。
悠太は精神年齢が高く、そういった相談をするには適任だろう。
自分に相談してくれなかったことは少し落ち込むが、こうやって話してくれた。
「真奈ちゃん、私は真奈ちゃんが大河くんのこと好きでも応援するよ。でもお節介とかはしたくないから、もし私の協力が必要だったら言ってね」
無理に二人をくっつけたりするのはよくない。
お節介を焼いて、疎まれたくもない。
「羽菜ちゃん…」
今日初めて、羽菜と目を合わせた。
羽菜は二人が幸せになるといいなと思った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます