第34話

 想像と現実は違うもの。


 中学生になって自分の顔が益々よくなっていることは自覚していた。故に女子からの好意が凄まじいだろうとも思っていた。

 小学生のころでさえ、キャーキャー言われ、自分を巡っての女子の争いなどを見てきた。


 小学校を卒業してすぐとはいえ、やはり年々綺麗になっていく自分の顔を、悠太は毎日鏡で見ていた。俳優をやっている中学生など、テレビで見かけるが自分の方が断然綺麗だと思っている。


 中学でもきっとこの顔を巡って女子の戦争が始まると思っていたものの、実際目のあたりにするとその苛立たしさは尋常ではなかった。


 入学式初日は酷いものだった。身の程を弁えていない女子がハエのように群がってくる。視界に入れたくもない醜い顔をした女が、我も我もと自分を囲んでくる。毎日鏡を見ていないのだろうか。その顔でよく寄ってくることができるな。


 顔も良い、頭も良い、外面も良い。こんな男がどうして醜い女を好きになると思うのか。

 羽菜とは雲泥の差だ。自分の隣に羽菜という美少女がいて、何故無視して寄ってくる。真奈レベルの顔なら、まだマシだが、それにしても顔が酷かった。


 これを言うと、きっと羽菜は自分を嫌うだろう。

 だが、悠太は自分が間違っていないと思っている。


 自分の顔が良いから女は寄ってくる。クラスメイトの他の男子を囲まないのは、彼等の顔が良くないから。女子は顔が綺麗だと思って寄ってきているのだから、こちらも顔で判断してもなんら問題はないだろう。向こうが顔を見て寄ってきているのだから、こちらも顔を見て拒んでもいいはずだ。


 ただ、これはあまり好まれない考えだと分かっている。特に羽菜は、こういったものを嫌うだろう。心が清い子だから、悠太の考えは受け入れがたいに違いない。


 そして、図書室へ行こうとした悠太を引き留めた、あの一件。


 悠太は苛立った。

 ブスのせいで羽菜との時間を無駄にした。無理にでも羽菜と図書室へ行けば、羽菜への風当たりは強くなるだろうと思った。

 好きなタイプはなんだ、羽菜とはどういう関係か、色恋沙汰に関わる質問攻めばかりで下心は丸見え。


 こんな身の程を知らないブスを見たのは初めてだ。小学生のころはこういったことはなかった。きっとあの頃の女子は顔のレベルが高かったのかもしれない。確かにブスは少なく、ブスに言い寄られたことはなかった。羽菜ちゃんに比べたら皆ブスだが、客観的に見て容姿は悪くなかったと思う。

 だが、このブスはなんだ。なぜこんなに堂々と恋愛について聞いてくるんだ。僕の顔とお前の顔の差が分からないのか。何故綺麗な顔の僕が醜い顔のお前と恋愛できると思うのか。今僕と喋ることができている、それだけで涙して喜ぶべきところだ。それを恋愛だと。

 顔に差があるなら頭にも差があるらしい。何故この中学に来たんだ。

 まさか知能と顔は比例するのか。


 心の中でボロクソに言い、顔には微塵も出さない。


「それで、悠太くんと水野さんと黒木さんと大河くんが幼馴染ってわけなんだねー」

「そうだね、小学校のころからずっと仲が良いよ」

「へえ、確かに大河くんもイケメンだし、イケメン同士気が合うのかもね」


 大河がいたら罵倒して終わりなんだけどな。

 大河が罵倒して僕が「ごめんね」って言って終わり。大河に悪役やらせて僕は宥める優しい男、みたいな絵。

 あれが一番楽なんだけどな。さっさと終わるし、羽菜ちゃんの中の僕の好感度も上がるし。

なんでこういうときいないんだよ。僕もうこの顔見るの嫌なんだけど。

 大河はこういう顔を視界に入れてもなんとも思わないだろうけど、僕は嫌。きったない顔して、体型も脂肪の塊が硬そう。

 早く羽菜ちゃんと付き合って柔らかそうな髪の毛撫でて、細い体を抱きしめたいな。なんで僕、こんなブスと喋ってんだろ、羽菜ちゃんが待ってるのに。


「あ、ごめん、そろそろ僕行かなきゃ」


 羽菜のことを考えると早く会いたくなってしまい、その場から逃げようとした。


「えー、まだいいじゃん。水野さんとはいつも一緒にいるんでしょ?」

「僕、先に羽菜ちゃんと約束してたんだよ。その羽菜ちゃんが、ちょっとならいいよって時間をくれたんだから、僕はそろそろ戻るよ」

「えー、もうちょっと」

「それと、勉強しないといけないから」

「えー、いいじゃん」

「んー」


 半ば投げやりのように笑うと、取り巻きの女子が「あたしらもそろそろ帰ろう」と言い、チャンスとばかりに悠太は教室を出た。


 クソ、ブスのくせに時間とりやがって。

 羽菜ちゃんと僕の時間が短くなっただろ。

 ブスは家で藁でも食ってろ。

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