第8話
悠太と話をしている最中に、校庭から楽しそうな声が響いてきた。放課後になってから時間が経ち、校庭で遊ぶ生徒が増えたようだ。
羽菜はなんとなく校庭を見下ろすと、大河の姿が目に入った。思わず顔を顰めてしまい、悠太は何を見ているのかと羽菜の視線の先を追った。
「あぁ、大河」
「悠太くん、大河くんと仲良いの?」
羽菜は眉間にしわを寄せながら聞いた。
悠太のことは好きだが、大河は嫌い。その嫌いな大河と悠太が仲良しならば、複雑な気持ちになると思ったため、無意識にしわが眉間に寄った。
悠太は羽菜の思考がなんとなく分かった。どう答えるべきか一瞬悩んだが、悠太としては羽菜に嫌われることだけは避けたかった。
「クラスの男子とは皆仲が良いけど、大河とはそんなに遊んだことはないなぁ。あ、仲が悪いわけじゃなくて、大河は大河で仲良い男子がいるから」
悠太は自分で言っていて、なんだか言い訳のように聞こえた。羽菜の反応を伺うと、納得しているようだったので安堵した。
「そういえば、大河くんはいつも同じ人としか遊ばないかも。でも悠太くんと仲良く話すところも何回か見たことあるなぁ」
「クラスの男子とは友達だからね。もちろん大河とも友達だよ」
女子にもグループがあるように、男子にもグループがある。けれどグループ同士の中が悪いわけではなく、いつも一緒にいるのがそのグループというだけだ。男子にも女子にもあるそれを羽菜は思い出した。
悠太くんは優しいし、友達も多い。大河くんもその中の一人なんだ。
悠太に「大河は嫌い」という言葉が欲しくなかった、といえば嘘になる。少しだけ期待していた。しかし、それは悠太らしくない。悠太の言葉を聞いて、やはり大人だと何度目かの感想を抱いた。
未だに校庭へと視線をやる羽菜に、なんとかその視線を外させたくて悠太は「今日はもう帰ろうか」と言った。羽菜は拒否する理由もなかったため、了承した。校庭から視線を外した羽菜を見て微笑み、校庭で遊んでいた大河を見下ろした。
「悠太くん?」
ランドセルを背負った羽菜は、校庭を見ている悠太に声をかけた。
「あ、ごめん」
悠太は自分もランドセルを背負い、教室の電気を消して廊下に出た。
羽菜は、自分から帰ろうと言ったにも関わらず校庭を見ていた悠太を不思議に思った。
もしかして、外で遊びたかったのかな。私がもし外でたくさん遊べるような女子だったら、きっと悠太くんも外で遊んだはずだ。教室にいた方が私にとって安全だと思ったから、無理して図書室に誘ってくれたのかな。
そう思うと申し訳なくなり、しょんぼりしてしまう。
さすがの悠太もこればかりは羽菜の心情を読み取ることはできなかった。
なんとなく落ち込んでいるように見える羽菜に、悠太は口を開いた。
「羽菜ちゃんが僕に言ったこと、覚えてる?外で遊ぶのと部屋の中で遊ぶのどっちが好き?って」
「あ、うん。お昼休みのときだよね」
「そう、それでさっき思ったんだけど。僕、羽菜ちゃんと二人でゆっくり話すのが一番好きみたい。羽菜ちゃんのことが一番好きだな」
言われた女子が羽菜でなかったら、この発言とその笑顔から告白ではないかと疑ったところだが、羽菜はまだ恋愛がよく分かっていなかった。
羽菜は自分が一番仲の良い友達だと言われ、嬉しかった。思わず顔に出てしまい、ニヤけた。
悠太は自分の気持ちがこれっぽっちも羽菜に伝わってないことくらい知っている。けれどこれでよかった。自分の中の一番が羽菜であると伝えることはできたし、羽菜もその気持ちに対して嫌だとは思っていない。
普段大河に嫌がらせをされている羽菜は、別の男子から一番好きだと言われて新鮮な気分になっただろう。悠太はそう思った。
「わ、私も悠太くんのこと好きだよ」
「ありがとう」
悠太でなく別の男子だったなら、これは両想いだと錯覚しただろう。
その言葉に恋がなくとも、好きと言われ純粋に嬉しく笑みがこぼれた。
羽菜は悠太の笑顔を見て、少しときめいていた。自覚はなかったが、心底嬉しそうに笑う悠太を見て、むずっと胸の方が反応した。
羽菜も普通の女子であるため、顔の良い男は好きだった。顔の良い男が良い笑顔を見せるのだから、何も思わない方が変な話である。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます