第6話
放課後になると大河は友達と遊ぶため、急いで教室を出た。公園ではなく、校庭で遊べる日だからだ。日によってはどこかのクラブ団体が占領している。その団体は連続して校庭を使うことはなく、昨日サッカークラブの団体が使用していたため大河は、今日なら使えると思い校庭へ出た。思った通り、校庭は使われないようで、上級生が数人使っていた。
「おっしゃ、サッカーしようぜ」
「今日ボール持ってきてラッキーだったな」
八人の友達を引き連れてサッカーを始めた。
教室ではまだ羽菜がランドセルに教科書を詰めていた。雑に仕舞うことが好きではないので、一番背の高い教科書から順に並べて収める。真奈はランドセルを背負い、帰る準備が整っていた。
「羽菜ちゃんはいつも丁寧だね」
「そ、そうかな」
羽菜が丁寧にランドセルの中へ教科書を仕舞う姿を見て、真奈は不思議だった。
どうしてあんなに遅いんだろう。羽菜ちゃんはいつも丁寧にしすぎだと思う。たまに早く準備をするときもあるけど、いつも準備が遅い気がする。
ハキハキと行動する真奈にとって、羽菜のそういうところは理解できなかったし、若干苛ついていたのは事実だった。
「あ、羽菜ちゃんもう帰るの?」
羽菜がランドセルにすべて仕舞い終えた頃、悠太は羽菜の席までやってきた。
「うん、もう帰るよ」
「そっか、一緒に図書室に行きたかったんだけど、また今度にするね」
黒いランドセルを背負い、残念そうに笑う悠太を見て真奈は首を傾げた。
悠太と羽菜が話すところを、今まで見たことがなかったからだ。しかも一緒に図書室だなんて、仲の良い証拠だった。
「二人とも、いつ仲良くなったの?」
真奈が問うと、悠太は真奈の方を向いて、「今日のお昼休みだよ」と答えた。
その瞬間、真奈は思考を巡らせた。
「あ、じゃあ二人で行って来なよ」
出した答えは、悠太と羽菜を図書室へ行かせることだった。
この答えに羽菜は目を丸くし、「でも」と目を泳がせた。
「羽菜ちゃんとはほとんど毎日一緒に帰ってるし、折角仲良くなったなら行っておいでよ」
羽菜は真奈が一人で帰らせることに罪悪感を覚えた。しかし真奈は一人で帰ることは嫌ではない。それに、今もクラスメイトが教室を出て行っているし、このまま教室を出ても、恐らく友達に遭遇して一緒に帰ることになると思った。
「本当にいいの?黒木さん」
「うん、いいよ」
「そっか、なんだかごめんね。急に誘ったから」
悠太は羽菜と真奈を見て謝った。
羽菜はそれを見て大人だなと思った。
「じゃあ、わたしは帰るね」
「うん、ありがとう。また明日ね」
「ば、バイバイ真奈ちゃん」
軽く手を振って教室を出た真奈に、悠太と同様大人だと羽菜は感心した。
「じゃあ行こうか、羽菜ちゃん」
「うん」
まだ教室には数人残っていた。
羽菜と悠太は一緒に教室を出て、図書室へ向かった。
「羽菜ちゃんは放課後図書室に行くことあるよね?たまに見かけてたから」
「うん、そうだよ。私も悠太くんのことたまに見かけてたよ」
「やっぱり。皆図書室に行かないよね、なんでだろ」
「うーん、本を読んでる友達もいないし….なんでだろ」
羽菜はふと真奈も本を読まないことを思い出した。他の友達も、本を好んで読んでいる子は思い当たらなかった。
「放課後の図書室、人が少ないよね。たまに僕一人のときがあるんだ」
「私も一人のときあった!」
「今日も人がいなかったら、羽菜ちゃんと話ができるんだけどね」
「悠太くんでもそういうこと言うんだね」
「どんなこと?」
「図書室でお喋りできる、って」
「だって誰もいなかったら静かにしなくてもいいんじゃないかな。他の人がいないんだから、迷惑にもならない気がする」
考えてみればそうかもしれない。自分たち以外に人がいないのならば、何のために静かにするのだろうか。羽菜は考えてみたが、その理由は思いつかなかった。
学校にはエレベーターなど楽なものは設置されていないため、短い足で階段を上り、図書室に着いた。
悠太が扉を開けると、静まり返った室内に人はいなかった。
カウンターには係の上級生か先生がいるはずだが、今日はいないようだった。カウンターに人がいない場合は自分で貸し出しをする。それが暗黙のルールだった。
「先生もいないね、忙しいのかな」
「そうなのかも。僕たち二人だ」
誰もいない静かな空間に悠太と二人きりという事実が、少し興奮した。
互いの共通点である本がたくさんある中、話すこともたくさんあるような気がしたからだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます