ありがとう

「おけなんてもんはな、ぜんぶたぬききつね仕業しわざなんだよ!」


 こわはなしをしていると、じいちゃんはそんなことをいう。


 そんなじいちゃんでも、そうはおもえないこともあったそうだ。


 中学時代ちゅうがくじだいなかのいいともだちがいた。

 いわゆる文学少年ぶんがくしょうねんで、ほんをよくんで、素人小説しろうとしょうせついていた。

 その友だちのいえ貧乏びんぼうで本もなにもなかったけれど、じいちゃんのうちには本がたくさんあった。じいちゃんは本を読まないけど、かれをよくうちにまねいていたそうだ。彼はじいちゃんちで本を読み、ものも書いていた。


 彼は高校こうこうがることもなく、都会まちはたらきにた。


 無理むりがたたったのだろう。

 じいちゃんがまだ高校生こうこうせいのうちに、くなったとしらせが来た。


 うちにのこされていた彼が書いたものは全部ぜんぶ、じいちゃんがやした。

 まれわったら、今度こんどこそ自由じゆうに本を読み、ものも書いてくれ。

 すすりきをけむりのせいにして。


 その煙がひとかたちになった。


 ありがとう。


 一瞬いっしゅん、そんなこえこえたがした。


 煙はてんのぼっていった。

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