誰かのはなし

冬野ほたる

【第1夜】 訪れるもの


 曾祖母そうそぼの祖母はえる人だったという。


 何がって? それは……。




 曾祖母の祖母の顔はもちろん見たことはない。写真もないからだ。名前も聞いたはずだけど忘れてしまった。お寺の娘だったという。お寺の名前も、もうわからない。


 曾祖母の祖母……めんどくさいからおばあちゃんと呼ぼう。おばあちゃんは視えていたけど、見えてはいなかった。目が悪く、完全に見えないわけではないが、視力はほとんどなかったらしい。それでも曾祖母曰く、普通に生活をしていたということだ。おばあちゃんが縫い物をするときには、よく針に糸を通してあげたと、曾祖母は話していた。


 そんなおばあちゃんの視えるものというのは、葬式をよろしくお願いしますと、お寺に挨拶にくる魂だったという。


 夜にとこについて眠っていると、どこからともなく線香の香りがしてくる。廊下を歩く足音がひたひたと聞こえる。しばらくして枕元へ誰かが座る気配がする。その誰かは、か細い声で「よろしくお願いします……」と囁き、頭を下げる。そして、ふっと気配は消える。


 朝、おばあちゃんは家のものに「来るよ」と告げる。すると二、三日のうちに必ず葬式が入ったそうだ。


 曾祖母はそんな経験は一度もないという。曾祖母を母にもつ祖父も、父もそんな経験はしたことがない。


 では、私は? 


 これは隔世遺伝とでもいうのか? それとも先祖返り?


 なんでもないときにふっと、その人の顔が浮かぶ。すると、二、三日後に訃報を聞くことになる。虫の知らせとでもいうのかもしれない。



 いつかは科学で解明される日はくるのだろうか。






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