神様なんて大っ嫌い

白ウサギ

プロローグ

「「私から全部奪っていかないでよ。」」

声に出ない心の叫びが頭の中で木霊する。

 出来ることなら、私が代わってあげたかった。何度も何度も数えきれないほどお願いしたし、何度だって頭を下げた。張り裂けてしまいそうな私の心の声は、夏の音でかき消されていく。

ミ~ンミンミンミンミ~ン

「うるさい。」

 泣きそうな声で、投げやりな言葉が発せられたのと共に彼と喧嘩した日の出来事も同時に思い出し、足の力が抜けて崩れ落ちる。

「ごめんなさい。」

 涙が溢れ頬を伝って、床へと落ちていく。

 あの日の喧嘩なんて、今の状況に比べたらとてもくだらない事だったのに、もうごめんなさいの返事は返ってこない。ついこの間、5日前までは病院で元気に話をしていたのに。

「どうして?」

 やり場のない悲しみと怒りがだんだんと込み上げてくる。

「大っ嫌い。なんて......。」

 毎日、毎日、雨の日も欠かさず願ったその何ものにも代えがたい願いを、簡単に踏みにじられてしまったような気がした。

「どうして?」

 ふいに出た私の言葉は、私の頭の中をグルグルと駆け巡り、私しかいない薄暗いその部屋が私に辛い現実を叩きつけてくる。私の問いの返事はどこからも返ってくることはない。

ミ~ンミンミンミンミ~ン

ピンポーン、ピンポーン。

セミの声と混じって何度かインターホンが鳴る。

私は、こんな時に誰も来ないでよ。という気持ちを押し殺し、テレビドアホンの方へと向かう。

「大丈夫?」

聞き覚えのある優しい声に私ははっとして、元気な声を無理やり振り絞って答える。

「ど、どうしたの?」

「いいから、開けて。」

と、鬼気迫る声に私は戸惑いながらも泣いていた事を隠すために涙を拭って急いで玄関へ向かい扉を開ける。

それと同時に、私の友人が扉を押しのけて私をギュッと抱きしめる。

「良かった。本当に......。」

さっきまで泣いていたせいもあって頭が回らず友人のその意味不明な行動に訳が分からずに、私はぼーっと立ち尽くす。

「どうしたの?私は.....」

そこから先の声が出ない。無理矢理振り絞って出していた元気な声が、だんだんとくぐもった声へと変わっていく。

「大丈夫だよ。大丈夫。」

友人の言葉が全然頭に入って来ず、楽しかった時の思い出が脳裏を次々とフラッシュバックする。それと同時に、泣き疲れて空っぽだったはずの涙腺からは、また涙が溢れだし、私は泣いていることを隠すためにギュッと強く抱きしめ返す。

「ごめんなさい。ごめんなさい。」

私の口から無意識に発せられるその懺悔の言葉は、誰にも届かず遠い夏の空へと消えていく。

「大丈夫だよ。大丈夫。」

優しい言葉をかけてくれる友人の言葉だけが、ずっとずっと頭の中で木霊する。

「「大丈夫だよ。大丈夫。」」

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