第17話 盗賊団の首領、ギース

「あいつらが侵入者か!」


「見張りは何やってやがった!」


「他の連中はどうしたんだ?」


 階段下の廊下で出会ったのは3人組の盗賊たちで、その後ろから1人の雰囲気の違う男が歩いてきていた。


「あー、あのガキ、強いな。後ろの少女はもっと強い。お前らには手に余る相手だ。援護に徹しろ」


「お、お頭! うす!」


 お頭と呼ばれた黒色の外套を身にまとっている長髪の男は、その腰から同じく黒色に塗られた剣を抜く。


 くるくると剣を回転させるその手つきは鮮やかなもので、只者ではない事を一目で感じさせた。

 俺は鋭く男を睨みつける。


「びびらねぇか。面白そうなガキじゃねぇか。名は?」


「サルヴァ・サリュ」


「俺はこの盗賊団の頭をやってる――」


 名乗りの最中、突如男の姿が目の前から掻き消えたように見えた。


 いや、下――!


 素早く男の動きを追うと、強烈な速さで踏み込んで、俺の足元で剣を一薙ぎしようとしている――!


「リプレイスメント!」


 慌ててリプレイスメントを起動し、盗賊たちの背後に出現、ついでに仲間の盗賊の一人の足を斬り、そいつは地面に倒れ伏す。


「――ギースってもんだ。なーんて、名乗りと同時にあの世に行ってもらう算段だったが、そう上手くはいかねぇか」


 男はぺろりと自らの黒剣の刃を舐めて、俺を一瞥する。残りの盗賊2名は遅れて俺の方を向き、剣を構える。


 こいつ、強い――! Eランク冒険者が全滅するわけだ!


 俺は一気に警戒度を上げながら、どうやってこの男を攻略したものか、算段を巡らせる。


「う、うわああああ!」


 と、山賊の一人が、無謀な突撃を仕掛けてくる。


「ち、馬鹿が!」


 ギースという名らしい盗賊が、ワンテンポ遅れて突撃に合わせて踏み込んでくる。


「シェイドミラージュ」


 俺はここで消費魔力の大きい透明化の魔法を初めて使用する。


 突然姿を消した俺に右往左往する盗賊。一方ギースは鋭く辺りの気配を察知し――


「そこ!」


 俺が移動した場所へと踏み込み一閃を加えるが――


「インパルス!」


 俺は正眼に構えた剣をおもいっきりギースに振り下ろし、インパルスでその剣を吹き飛ばしながら、その身体を壁に叩きつける。やはり不可視状態になっていると動きは分からないようで、ギースは俺の動きに全然対応できていなかった。


 攻撃した事で俺の不可視状態は解除されるが、そんなのは気にせず、そのまま畳みかける。


 と、ギースが腰から2本目の黒剣を抜き、素早く俺の攻撃を受けようとするが――


「インパルス!」


 不自由な姿勢でインパルスつきの一撃を受けきるのは流石に難しかったようで、男の黒剣はまたもはじけ飛び、そのまま男の身体に浅くない傷が入る。


「ぐおお……!」


 横に飛ぶようにして引いたギースはぜぇぜぇと息をしており、弱っている事が伺える。


 黒剣2本はギースの背後に落ちており、敵は無手。


 ギースは剣を拾おうと後ろに手を伸ばすが、そこで俺は「リプレイスメント」で男と剣の間に身体を割り込ませ――


「インパルス!!!」


 全力のインパルスつきの一撃で、ギースを袈裟斬りにし、始末する。


「お、お頭!」


 まるで動きについてくる事ができずにいた盗賊2名は、ダメ元で俺に向かってくるが――


「カオスカッター」


 中距離から放たれたカオスカッターを受ける事ができず、そのまま首と胴が離れて死亡した。


「いまのは80点です。さほど実力の変わらない相手に良く戦いました。では、2階を探索してゴミ掃除をしてから帰りましょう」


 師匠から80点なんて高得点をつけられたことが無かった俺は素直に喜びそうになるが、しっかり調教されてしまっているな、と遅れて苦笑してしまう。


 その後、2階を探索した俺たちは、盗賊たちの戦利品である現金などを回収し、奴隷として捕まっていたらしい女冒険者が死亡しているのを見て胸糞が悪くなったりもしつつ、領都マークへと帰ったのだった。


 冒険者ギルドにつくと、開口一番、ロセットは受付にこう言い放った。


「この依頼はサルヴァにほぼ一人でやってもらいました。クエストの報酬はサルヴァにあげてください。名誉点加算もです」


「あ、はい。あと、首領だったギースという男ですが、どうやら懸賞金がかかっていたようです。そちらも合わせてサルヴァ様の口座に入金させていただきますね」


 思わぬ臨時収入にほくほくの俺である。そして、GランクでありながらDランク依頼を単独達成した事で、俺のランクは一気にFランクに上がったようであった。明らかに見合わないランクの人間は、さっさと適正ランクまで上げてしまうのが冒険者ギルドの方針なようだ。


「それじゃ、次は魔物でも狩りましょうか」


 スパルタ師匠はまったく弟子を休ませる気はないらしく、俺はその足で魔物狩りに直行。


 そんな感じで、俺はそれから学園に入学するまでの間、師匠と冒険者生活を送りながら、冒険者のイロハを叩きこまれたのだった――





 *****



 


 それからおよそ三か月が経ち――


 気づけば王立オーベリア冒険者学園の試験日前日を迎えていた。


 俺は師匠や父親たち家族、メイドのアンジェラと別れを済ませ、一人、魔導列車に乗り込むが――


「わたしがパパといまさら離れ離れになるとか有り得ないです。当面わたしもオーベル王国王都オーベリアで活動しようと思います――いいですよね? 当然、いいですよね?」


 魔導列車の隣の席には、なぜか見慣れた師匠の姿があったのだった――

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