世界が終わる日に

蘇芳

第1話

あと1週間で世界が滅びる。

そんなことを言われてから世界は変わった。市民は食糧を奪い合ったり、富裕層はどうにか地球以外のところに移住しようと争ったり、日々凄まじい速度で世界中が荒んでいった。

そして今日ついに世界が滅びるらしい。街中には憔悴しきった人、道の端で不安そうに俯く子供たち、まだまだ食糧の奪い合いをする醜い大人たち。絶望などから街の雰囲気は暗くなっていた。


〜〜♪〜♩


どこからか音楽が聞こえてくる。中学生ほどの男の子が広場でギターを弾きながら歌っていた。その歌は悲しげな音色だが、どこか暖かく優しい歌だった。もちろんその少年の歌を気にする人などおらず、みんな素通りしていく。それでも少年が歌を止めることは無い。世界が終わるその時まで歌い続けているのだろうか。決して誰の心に響かなくても、街の雑音に紛れてしまっても、自分の想いを届けたい。少年の歌からはそんなことが感じられる。


日も傾き出した頃、街中も人気が少なくなった。家やマンションでは所々蝋燭の明かりの周りに集まり、家族や恋人と最後の団らんをしている家が増えてきた。最後の夜はやはり、大事な人と過ごすものなのだろうか。しかし先程の少年はまだ広場で歌い続けている。誰も通りはしないのにただただ、自分の想いを空へ響かせている。


最後の時が近づく。沈みゆく夕日の光に照らされながら少年は、終わりゆく世界に思いを馳せながら1人、静かな街で歌を響かせ続けていた。

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世界が終わる日に 蘇芳 @momoryo

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