勇者フルート物語・4 闇の声の戦い 

朝倉玲

プロローグ うごめく闇

 暗がりの底に闇がうずくまっていました。


 闇は絶えずうごめいて、次々と形を変えていきます。

 黒い煙のようにいっぱいに広がったと思うと、急速に寄り集まって生き物のようになり、次の瞬間には怪物の姿に変わり、また崩れて水のように流れます。

 暗がりの底には誰もいません。ただ闇だけが動き続けています。


 闇が急に大きく伸び上がって、蛇のように長い鎌首を持ち上げました。

 明かりの見えない頭上をふり仰いで叫び声を上げます。それは苦痛の悲鳴でした。

 けれども、その声を聞く者はありません。声は空しく暗がりに吸い込まれていきます。


 再び崩れた闇は、大きくのたうち、巨大な翼に変わりました。

 真っ黒な羽毛の一枚一枚が、はっきりと暗がりに浮かび上がります。

 それはすぐに小さくしぼんでまた闇の塊になり、次の瞬間には、まったく別のものに形を変えていきます。


 すると、闇の奥から低い声が聞こえてきました。地の底からい上ってくるような、うめき声です。

「ニクイ……ニクイ……憎イ……」

 恨みのこもった声が繰り返します。

 闇がまた形を変えました。暗がりから抜け出そうとするように、上へ上へと伸び上がっていきます。

 けれども、すすり泣きに似た悲鳴が闇の中から響いたとたん、闇はまた、どっと崩れ落ちました。


 その時、闇の奥でかすかに何かが銀色に光りました。

 それはあっという間に黒い闇にみ込まれ、そのまま見えなくなってしまいました――。

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