【GL】私を弄んで別の女と浮気していた彼女に復讐しようと思ったら逆に分からせられる話

@fujinobu

第1話

 午後。

 私は自室で、ある雑誌を読んでいた。

 月に一度村に、王都のものを売りに来る行商人から買ったものだ。

 毎月必ず読む、愛読の月刊誌。


 『世間では報じられない真実をお伝えする、がモットーの月刊真実!今回は、いま話題沸騰中!15歳で勇者の徴が現れ、その後わずか5年で魔王を倒し、世界に平和をもたらした、勇者アリサ特集です!

 出身は?恋人は?遊び人という噂の真相は?調べてみました!』

 

 「むむむ……」


私は唸りながら、その記事を読む。


 ページをめくると、魔道具で撮った写真が一つ載っていて、王都で凱旋パレードをしている勇者アリサが、何人もの女の子に囲まれている様子が写っていた。


 「『複数の女性に囲まれ、鼻の下を伸ばす勇者。やはり、遊び人という噂は真実のようですね』……むむむ」

 

 「……お姉ちゃんまたそんなの読んでるの?」


 いつの間にか隣にいた妹が呆れたように言う。


 「そんなのとはなんだ!月刊真実は本当のことしか言わないんだぞ!」


 「そうかなぁ、どうみても憶測で逆張りして、売れればいいとしか思ってないような三流拝金雑誌だと思うけど。その写真だって、デレデレしてるようには見えないし」


 「…………少なくとも、アリサが遊び人だって、この記事は当たってるもん!」


 そう言い切れるだけの根拠が、私にはある。

 

 ……なぜならかつて、彼女がこの村にいた頃。私も彼女の毒牙にかかったからだ。



 それは、彼女に勇者の徴が現れる前。

 それまで彼女は、ただの14歳の少女だった。


 人々が少女に対して抱きがちな幻想通り、活発で、明るくて、天真爛漫で、友達も多い、ただのというには模範的すぎな気もするけど、とにかく、特別な力を持ってはいない少女だった。


 「ほら、エマちゃんも一緒に遊ぼう?」


 孤立する私にそう手を差し伸べてくれたことも、一度や二度じゃなかった。


 ……翻って同い年の私は、陰気で、友達もいない、家に引きこもって、家業の魔法薬や魔道具作りをしながらニヤニヤと笑っている、悪夢のような少女だった。


アリサに差し伸べられた手に、中途半端に指を曲げた手で断るように横に振って、


 「い、いいよ、私は。え、えへへ……」


そんなふうにすげなく返すだけ。


 えへへってなんだよ、可愛くないんだよちくしょう。

 

 そんな対照的な二人が……、なんの因果か付き合うことになった。

 告白してきたのは、向こうからだ。


 突然呼び出され、『なんだろうカツアゲかな、でもアリサはそんなことするタイプじゃなさそうだし』と行ってみると……


「あのねエマちゃん……、私……エマちゃんのことがずっと好きなの!だから、つ、付き合ってほしい……」


真っ赤に紅潮した頬。

 そして、今まで、活発で純粋なアリサからは見たことのない……媚びるような……、ああもうめんどくさい、言っちゃえばちょっとエッチな上目遣い。

 

 勿論最初は信じなかった。


 タチの悪いイタズラかな?と思って、

『私のどこが好きなの』と聞いた。


 すると……、


 「最初は見た目がすっごく可愛いなって思ってて、ほら、エマちゃんの髪ってこの辺じゃ珍しい黒だし、よく目で追ってたんだけど、いつもは長い前髪で隠れていて、たまに見える目が綺麗で、手足も細くて、痩せてスレンダーな体もいいよね。あ、もちろん見た目だけじゃないよ?褒められるとエマちゃんいっつも嬉しそうに喜ぶじゃない?あれがすっごく可愛くて、庇護欲が掻き立てられるというかちょっと子供っぽさがあるというか……あ、ごめん、悪く言ってるわけじゃなくてさ、純粋で可愛いなって意味。かとおもったら、魔法薬とか魔道具の知識もすごいよね。エマちゃんのウチのお店に並んでる魔法薬や魔道具のうち半分はエマちゃんが作ったものって聞いてびっくりしちゃった。初めて、エマちゃんが魔法薬作ってるところを見た時はもっとびっくりしたなぁ。エマちゃんがすっごくかっこよく、大人びて見えたし、それに、楽しそうで。あんなに自分が楽しんでできることを見つけられるっていうのもすごい才能だと思うんだよね私。

 それから、それから…………」


そんな調子で、つらつらつらと、容姿から性格から、魔法薬の知識まで、全部が好きと長文で語られ、

 私は、ニヨニヨ笑いながら、


 「そ、そんなに私のこと好きなんだぁ……」


とか、気持ち悪いことを言っていた。


 あー!もう、あの時の自分、死ねばいいのに。


 で、まあ私は当然のように嬉しかったので『つ、付き合ってあげてもいいよ』と謎に偉そうに答え、見事カップル成立、というわけ。


 周りには隠していたけど、アリサが、相談していた親友にだけは報告したいと言ったので、いいよ、と返事をした。

 ちょっと優越感があったし。


 アリサとの日々は楽しかった。


 隠してるから、大したことはできなかったけど、お互いの家に遊びに行ったり、私の趣味(と仕事)でもある魔法薬の調合を見るのが楽しいらしくて、私はドヤ顔で魔法薬の知識を披露して、アリサがそれを褒めてくれるのが嬉しかった。


  ここまでなら、私の青春が輝かしかった……、で済むんだけど、実際はそうじゃなかった。

 


 アリサが言ったことは、全部嘘だった。


 私はそれを、付き合って一年が経過しようというあの時に、見てしまった。

 

 遊びに行こうと、アリサの家の前についた時、カーテンが捲れ、アリサの部屋が見えているのに気づいた。


 中には、アリサとその親友。

 私とのことを相談していた相手、だったはず。


 まあ 今は私が彼女だから、一番親しいのは私だけどね!と心の中で醜いマウントをとっていると、二人の体勢が不自然なことに気がついた。


 え、あれ、アリサが親友をベッドに押し倒してない?

 しかもめちゃくちゃ距離が近いような???

 私はまだ、キスもしてないのに?


 二人が離れる。


 何かを話しているが、聞こえない。


  私は腰のポーチから、普段から持ち歩いている小さい薬箱を取り出す。

 そして、一時的に聴力が良くなる薬を飲んだ。

 これで会話が聞こえる。



 「どう?こういうこと、エマにもできる?」

 挑発するように、私の名前を口にするアリサの親友。

 それに対して、アリサはーー。


「無理、無理だよ。できるわけないじゃん。意地悪なこと聞かないでよ」

 

 「ふふ、それもそうだね」

 

 

 そこまで聞くと、私は耐えきれなくなって家へ逃げ帰った。

 とにかく、アリサは親友と浮気していて、しかも私を馬鹿にするようなことを言って……。

 そんなところを目撃してしまった私は……、もうハートブレイク。

 家で、泣いて泣いて泣いて、普段は私を馬鹿にしてくる妹にも心配されるくらい泣いて。


 直接会う勇気はなかったので、罵詈雑言と別れると書いた手紙を妹に届けてもらった。

 すぐにアリサが家まで飛んできたけど会わなかった。

 ガン無視して、声も聞きたくなかったから、遮音性の結界を張る魔道具まで使った。


 それからまもなく、アリサに勇者の徴が現れ、あれよあれよという間に、旅立ってしまい……。


 結局、以来アリサとは一度も会っていない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る