アパートの四季

第1話 引っ越し初日

高橋真一は、アパート「四季ハイツ」の前に立っていた。

緑豊かな街路樹とレトロな外観が、彼の心に少しの安らぎをもたらしていた。

高橋はこれまで大都市で企業戦士として働いてきたが、突然の部署異動と会社の再編成により、新たなスタートを切ることになった。

これを機に、彼は物理的にも精神的にもリセットを図ろうと、田舎の静かなアパートを選んだのだった。

「ここが新しいスタート地点か…」

高橋は深呼吸をして、荷物の搬入作業を開始した。

気合いを入れて頑張るつもりだったが、荷物の量に圧倒されてしまう。

引っ越しトラックから次々と荷物が降ろされる中、高橋の気持ちは徐々に不安と期待が入り混じったものになっていた。

その時、どこからともなく「ようこそ、四季ハイツへ！」という元気な声が聞こえた。

振り向くと、年配の女性がにこやかに手を振っていた。

彼女はアパートの大家、川村美津子さんだ。

彼女の温かい笑顔と親しみやすい言葉が、高橋の心を少し軽くした。

「はじめまして、大家の美津子です。新しくこちらに引っ越してこられた高橋さんですね。これからよろしくお願いします。」

「はい、高橋真一です。こちらこそよろしくお願いします。」

「もちろんです。もし何か困ったことがあれば、何でも相談してくださいね。」

引っ越しの荷物を整理しながら、高橋は川村さんの言葉に支えられていた。

その間に、住人たちも次々と姿を見せた。

まずは隣の部屋から出てきた鈴木健一さん。

彼はちょっとおしゃれでアート好きな中年男性で、自分の部屋に飾るアートを自慢しながらも、手伝いを申し出てくれた。

「君もアートに興味があるなら、ぜひ観ていってください。いや、今はまず荷物を運ぼうか。」

次に現れたのは、美咲という名前の若い女性。

彼女はどこかおおらかで、エネルギッシュな雰囲気を持っていた。

美咲は「引っ越しお疲れ様です。よかったら、私が焼いたクッキーでもどうぞ！」と、手作りのクッキーを持ってきた。

「え、ありがとうございます…」

高橋は、彼女のクッキーを一口食べてみた。

意外と美味しく、その味に彼女の明るい性格がそのまま表れているようだった。

引っ越し作業が一段落した夕方、高橋は新しい部屋に落ち着きかけた。

しかし、その時、廊下の方から妙な音が聞こえてきた。

高橋は耳を澄ませてみたが、その音の正体が掴めない。

「これ、何の音だろう？」

彼は不安を感じながらも、住人たちに尋ねてみたが、みんな「気のせいだろう」と笑い飛ばしてしまう。

川村さんも「新しい家に慣れるまでは、いろいろ感じることがあるかもしれませんね」と微笑んでくれるが、高橋の心の中に残る不安は拭えなかった。

その夜、高橋はベッドに横たわりながら、あの音の正体について考え続けた。

普段の厳しい業務や忙しい日常から解放されたと思ったのに、新しい生活に一抹の不安を感じていた。

翌朝、高橋はアパートの廊下で再びあの奇妙な音を聞く。

音の正体を探るべきか悩むが、住人たちがそれをどう扱うのかも気になる。

高橋は新しい環境にどう適応していくのか、また、音の正体は何なのか、気がかりな一日が始まる。