第46話 スローライフ配信者。変人と再会する

 今日も今日とて動画の編集作業に追われる日々である。


 ダンジョン大賞が発表されたことによって、ダンジョン配信の需要がかなり上がった。


 なにせ日本人で初の受賞者が出たということで、2匹目のドジョウを狙うような輩が大量発生している。


 大手の動画配信者もダンジョンに潜ってみたって動画を上げるようになり、動画サイトのオススメ欄もダンジョン配信系の動画に埋め尽くされているのが現状である。


 ダンジョン配信そのものはブームになってきているけれど、今は特にそのブームが最大限に盛り上がっている状態だと思う。


 俺もダンジョン配信の経験と編集経験があるお陰で仕事には困らない状態だ。


 とはいえ、これも一過性のブームだろうとは思う。


 動画サイトと言うものは流行り廃れというものが激しい。


 今のダンジョン配信のブームもいつまでも続くとは限らないのだ。


 まあ、ダンジョン配信の需要そのものがなくなることはないだろうけど、この勢いもいつかは終わるものと思われる。


 だから、今の内に編集代行で思い切り儲けてやらないと。


 俺は今のところダンジョン配信の動画編集を専門にやっているからな。


 だからこのままだとダンジョン配信が下火になったら一緒に死ぬ運命にある。


 いつまでもブームが続くなんて甘い予測は立てずにしっかりと将来を見据えて考えないとな。


 朝からずっと作業しているともう夜中になっていた。


 時刻は午後の9時。集中して作業していたから腹が減らなかったけれど、時刻を意識しだしたら急に腹が減ってきたな。


 しかし、今からなにか料理を作るのは気力の問題で厳しい。というかしたくない。


 この時間帯ならスーパーに行けば割引された総菜や弁当が売っているだろう。


 ちょいと自転車を走らせて行ってくるか。


 もうすっかり寒くなってきた時期で夜はかなり冷え込む。俺はコートを着てから外へと出た。


 クロベーは……寝ている。起こすのも悪いしできるだけ音を立てないようにそっと出かけよう。


 田舎の暗い夜道を自転車のライトを付けて走っていく。


 少し前は秋の虫のさざめきが聞こえていたけれど、今はすっかり静かになったな。


 もうすっかりと通いなれたスーパーへの道。特になにか起こることもなくスーパーへとたどり着いた。


 さあ、なんの総菜が残っているかな。総菜ガチャの時間だ。


 この時間帯は売れ残りを安く買えるけれど、店頭に並んでいるものの種類が少ないのが欠点だ。


 鮮魚コーナーに行けば刺身も安く売っているな。刺身の詰め合わせが50パーセントオフ。買いだな。


 他にもう1品なにか買ってインスタントの味噌汁と家に冷凍してあるご飯を解凍して済ませるか。


 後は総菜コーナーへ行って……うげ。


 なんか総菜コーナーに見たことがある風体の不審な女がいる。


 相変わらずの髪の毛がボッサボサで顔色が悪い人。たしか、ダンジョンで生活している八柳さんだっけ?


 どうしよう。声かけるべきか? 別に知り合いってほどの仲でもないけど、知らないってわけでもないしな。


 一旦総菜コーナーから離れて、八柳さんが去った後にもう1度ここに来るか?


「あ!」


 うわ、八柳さんがこっち見た。そして、なんか薄気味悪い笑みを浮かべている。


「狩谷さん。こんばんは。ふふ」


「あ、どうも。こんばんは」


 目があってしまった以上は挨拶をしなければならない。これが社会人の流儀である。


「狩谷さん。こんなところで会うなんて奇遇ですね? なにしているんですか?」


「スーパーで買い物以外にすることってありますかね……?」


「あ、そうですね。ふふふ」


 ふふふって、なにが面白いんだ。


「えっと……八柳さんも値引きの総菜を狙っているんですか?」


 とりあえず、なんか気まずいから世間話でも振っておくか。この時間帯にスーパーに来る人間の大半は大体値引き狙いだろうし。


「いえ。私はただフードロス削減に協力しているだけ。環境を配慮した結果であって、決してそんな値引きだなんて卑しいことを目的として動いてない」


「なんか……すみません」


 卑しいとか言われてしまった。でも、仕方ない。定職についていない独身男性にとって、これは生命線なんだ。


 でも、その割には八柳さんの買い物カゴの中には値引きシールが貼られたものしかない。


「狩谷さんは値引きされた商品を狙ってきているんですか?」


「ええ、まあ、そうですね。ちょっと作業をしていたら夕食を食べずにこの時間帯になってしまったものなので、ものはついでと言うやつです」


「ふーん。そうなんだ」


 会話が終わってしまった。まあいいか。別に八柳さんと親睦を深めてもお互いの連絡先も知らないし、頻繁に会うような仲でもないし。


 それにしても……少し失礼な話かもしれないけれど、ダンジョンに住んでいるこの人……ちゃんと働いているのだろうか。


 まあ、働いているからこうしてスーパーで買い物ができているんだろうけど。


 あんまりこの人のプライベートを深堀りしてはいけない気がする。だから、ちょっと疑問に思うけどここはスルーしようか。


「じゃあ、私はそろそろ行きますね」


「え、ああ、はい」


 八柳さんと別れた俺は総菜コーナーに残っている総菜を手にしてそれらを購入した。


 自宅に帰り、冷凍していたご飯を電子レンジで解凍しつつ、湯を沸かしてインスタントの味噌汁を作る。


 刺身の詰め合わせとチーズ入りササミ揚げを食べる。


 刺身に醤油とすりおろしのショウガを付けて食べる。


 身が引き締まっていて、それでいてうま味がしっかりとしている。


 新鮮な魚には出せない味というのだろうか。腐りかけ特有のうま味というものはたしかにあるな。


 チーズ入りササミ揚げを食べる。衣が水分を含んでべちゃっとしているけれど、十分にうまい。


 鶏肉の少したんぱくな味とチーズのトロリとした食感がマッチしていてご飯が進む。


 ちょっと遅めの夕食で値引きされた総菜が主体だけど十分に満足できる夕食だった。



 翌日、俺はパソコンでメールを確認した。


「ん? 依頼が来ているな」


 ダンジョン配信動画の編集の依頼だ。今までは俺が自分から仕事を取りに行っていたけれど、相手側から依頼が来るのは珍しいな。


 とりあえず、送られてきた元ファイルを開いてみるか。


 俺はその動画ファイルを開いてみて驚愕した。


 その画面に映っていたのは八柳さんと彼女が住んでいるダンジョンだった。


「はい。こんにちは。今日もダンジョンに向かって金槌を叩く配信をします」


 八柳さんはダンジョンの壁を金槌で叩き始めた。


 いや、なにしてんの。この人。まあ、この奇行については知っていたけれど、これ配信してんの?


 カンカン、カンカン、カンカン、一定のリズムで音が聞こえてくる。


 八柳さんが特にしゃべるわけでもなんでもない。ただ、ダンジョンの壁を金槌で叩くだけの配信。


 見所……見所はどこ……?


 いや、これをどう編集しろって言うんだ。無茶ぶりにも程があるぞ。


 とりあえず、八柳さんのチャンネルを見てみようか。


 こんな配信に需要なんかあるわけないだろと思いつつも俺は八柳さんのチャンネルを見た。


 そして、更に絶句した。


「は……?」


 明らかに俺が命がけでやっていたダンジョン配信よりも再生数やチャンネル登録者数が多いんやが。


 どういうことだ?


 俺はこの需要の謎を探るべくコメント欄を開いてみた。


:とても集中して作業できました

:この音を聞いていると勉強が捗る

:今日も作業用BGMとして使わせてもらいます

:やっぱり、ダンジョンの壁の音の響きはいいですね


 なるほど。たしかに一定のリズムで音が鳴り続けるなら、それは作業用BGMとして向いているのか?


 ダンジョンの壁を叩いてなる反響音。たしかに耳を澄ましてよく聞くと趣があるような気がする。


 そんな音を配信に流す。そんな発想誰ができるんだよ!


 変人の奇行がたまたま大衆の需要に合ってしまったってやつか。


 なんか思いつかなかったのが悔しい。

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