第43話 スローライフ配信者。風邪をひく

 朝目覚める。なんだか体が重い。頭もちょっとボーっとしているし、体がだるい。


 寒気がするのに少し汗ばんでいる気がする。なんか調子が悪いな……


 もしかして風邪をひいたかもしれない。


 季節の変わり目というこの時期。体調を崩しやすいけど、まさかこの俺が風邪をひくことになろうとは。


 田舎というこの空間。人混みにいったわけでもない。


 外に出た後は手洗いうがいもしっかりとしていたつもりだったのに、一体どこで風邪の菌をもらってきたのだろうか。


「げほげほ」


 あー。やばい。咳も出てきた。


 あまり人と接触しない仕事でも風邪ってひくもんだな。


 仕方ない。今日1日はしっかりと休むか。


 一応体温を測っておこう。


 体温は……37.4度。まあまあ微熱だ。もっとあるかと思ったけど、普通過ぎる。


 ブラック社畜時代。間違いなくこの程度の微熱だったら仕事を休ませてもらえない程度の風邪。


 でも、今の俺は自分の仕事を自由に割り振れることができる。


 今日はゆっくり休んで明日に備えよう。それができるのが自営業の強みだな。


 今日は配信の予定もないし、家の中でのんびりと過ごすことにするか。


 幸いにして今は食欲がある。きちんと栄養がつくものを摂取して寝ていれば風邪くらい治るだろう。


 風邪はひき始めが肝心とか言うしな。ここで風邪菌をいじめて治すのが大人の戦い方だ。


 念のためマスクをして、クロベーのところへと向かう。


「クロベー。今日のエサだ」


 俺はクロベーのエサ皿の片方にドッグフードを、もう片方に水を入れる。


「レンよ。そのマスクはどうした? 風邪でもひいたか?」


「ああ。その通りだ。クロベーにうつすといけないから、今日はあまり接触できない。最低限の餌やりしか来れないと思ってくれ」


「そうか。気遣い感謝する」


 クロベーに人間の風邪がうつるのかは知らないけど、用心に越したことはないだろう。


 クロベーにエサをあげた後は、俺のエサ……じゃなかった。食事を作らねば。


 とりあえず風邪をひいた時の定番として、卵を食べたい。そうだな卵粥たまごがゆでも作るか。


 土鍋の中に水を入れて中火でぐつぐつと煮えるまで待つ。


 水が煮えるまでの間に卵を溶いて、その中に塩胡椒、料理酒、隠し味の少量の麺つゆ等の調味料を入れる。


 しばらく待っていると沸騰してきたので、そこにご飯を入れる。


 ご飯を入れたら火を弱火に変えて、じっくりことことと煮込む。


 ご飯がやわらかくなってきたら、火をまた中火に戻して調味料を入れた卵をさっと入れてかき混ぜる。


 卵が固まってきたら火を止めて土鍋にフタをして蒸らす。


 よし、これで完成だ。


 早速食べてみよう。


 俺はスプーンで卵粥をすくい、口元へと持ってくる。そしてフーフーと冷ましてから口の中へと入れる。


 広がる卵の風味。隠し味に入れた麺つゆが良い味を出している。


 やはり麺つゆは最強。味に困ったらとりあえずこれを入れておけば大抵のことは解決できる。


 体の芯がポカポカと温まっていくような気がする。さっきまで寒気にぶるぶると震えていたのが嘘のようだ。


 このまま卵粥を食べ続けて風邪の負けないように栄養を取らなければ。


 アツアツの卵粥をゆっくりと食べながら、テレビを見る。


 平日の朝の時間帯のニュースを見る。こうして見ているとなんだか学校を風邪で休んだ日のことを思い出す。


 いつもは学校に行っている時間帯にやっている朝のニュース番組。それを見ているとなんだか特別感とかあったな。


 まあ、今では好きな時間帯のテレビを見れる生活をしているから、全くそういうありがたみはない。


 毎日学校に行かなければならないという不自由な生活だからこそ解放された時の特別感が味わえるのである。


 毎日自由に過ごしていたら、特別なものというものは案外感じにくくなってしまうのかもしれない。


 そんな哲学的なことを考えているが……今のこの生活を手放したいかと言うとそうは思えないな。


 なんやかんやでこの生活は楽しい。だって、ブラック企業勤めの時は不自由すぎて死ぬかと思った。


 人間は自由過ぎてもダメだし、不自由過ぎても壊れてしまう。


 自由と不自由の均衡が取れている状態が最も幸せ。それがこの世の真理なのかもしれない。

 

 自由と不自由のバランスが取れないなら、自由の方に傾いた方がまだ良い気がしてくる。


 まあ、今の生活も配信スケジュール通りに動いてはいるし、動画編集も締め切りはあるわけだし完全に自由というわけではない。


 そう考えると今の俺が最も恵まれているのではないかと思ってしまう。


 だって、風邪をひいた時に会社に行くのが憂鬱にならなくて済むのがこれほどまでに嬉しいことだとは思わないだろう。


 会社を休まなければならない程の高熱が出たとしても、罪悪感を覚えずに済むのはメリットすぎる。


 さて、卵粥を食べ終わったことだし、寝るか。


 風邪を治すのには睡眠が1番だからな。やはり生物である以上は睡眠が最も重要なのだ。


 俺は赤いマナナッツからそれを学んだ。というわけで、自室へと戻って布団へとダイブ。


 毛布でくるまり、俺は朝から寝るという贅沢な時間を過ごすことにした。



 再び目覚める。時刻は夕方手前。空が少し暗くなり始めたころである。


 風邪の症状については朝と比べると少しマシになっている。それでも、ちょっと喉にイガイガを感じていてまだ本調子とは言い切れない。


 俺はマスクをしてクロベーの様子を見に行く。


「クロベー。生きているか?」


「それはこっちのセリフだ。レン。風邪は大丈夫なのか?」


「ああ。寝たらちょっと良くなった」


「それは良かった」


 俺はクロベーにまたエサをあげた。そして、また腹が減ってきたので昼食兼夕食を作ることにしよう。


 眠っているだけでもなぜか腹は減ってしまう。


 動いてないのに腹が減るのは人体のバグだろと思うが、睡眠中でもきっちりエネルギーというものは消耗されるのである。


 今日は食っちゃ寝しかしてない気がするけれど、たまにはそういう日があっても良いだろう。俺はまた朝使った土鍋を使って料理をすることにした。


 風邪を治すものの定番と言ったらやはりネギだろう。


 俺はネギを具材にした鍋を作ることにした。


 ネギ、鶏肉、ニンジン、白菜、白滝、豆腐、等々、冷蔵庫の中にあった具材を適当に鍋の中に放り込んでいく。


 特に風邪を治すためにネギは多めにしておいた。


 味噌味をベースにした鍋を作り、ダシを取っていく。


 ぐつぐつと煮えてきたら一人鍋の完成。鶏肉を入れたし、しっかりと火は通してある。


 今シーズン初の鍋である。まだ鍋には少し早い季節な気がしないでもないけど、風邪をひいたから少しフライングしてやる。


 アツアツの具材を小皿の中に入れて冷ます。そして具材を食べる。


「うめえ!!!!」


 体に栄養が染みわたる。体が温まり、風邪のウイルスが死滅していくような気がしてくる。


 徹底的にウイルスを除去してやる。その強い意思を持って俺は鍋を食べ続ける。


 鶏肉も中々にうまいな。今朝食べた卵と合わさり、最強のたんぱく源である。


 うまいし、栄養満点だし、最強の食事を摂取。具材を食べ終えたら締めにうどんを入れて食べる。


 ご飯にしようかと悩んだけれど、朝に卵粥を食べたので流石にここはうどんにしておこうと思った。


 のど越しが良いうどんを食べて俺はすっかりと元気が出た。やはり、うまい食事としっかりとした睡眠こそがなによりの薬なのだ。


 食事後、俺は風呂を沸かして、じっくりと浴槽に浸かることにした。


 きちんと浴槽に浸かることで免疫力が向上する。体を温めるのが重要なのである。


 風呂に入った後、俺は布団の中にまた潜りリラックスをする。


 今日は何もない1日だった。風邪というマイナスを消すための日だ。


 でも、たまにはこうして全力で休む日があってもいいな。特に忙しい現代人こそ、全力で休むという概念を知って欲しい。


 俺はスッキリとした気分で眠りについた。


 これで風邪も完全に消えてリフレッシュした気分で次の日を迎えることができた。

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