第37話 スローライフ配信者。クロベーとマナナッツの秘密を考察する
赤いマナナッツを食べてから数日が経過した。しばらくの間、俺の身体能力は向上していたし、睡眠の質がだいぶ良くなった。
肌艶も良くなって心なしか普段よりもイケメンになったような気がするし、かなり調子が良かった。
難しい本を購入して読んでみたけれど、すーっと頭に入っていくような感じがしてかなり賢くなった気がする。
しかし、その調子もすぐに続かなくなり、いつも通りの身体能力と頭脳に戻った。難しい本もなんでこんなのを買ったのかと後悔するくらいに内容が理解できなくなっていた。
でも、既に読んだ部分に関しての知識はしっかりと定着しているので、全く無駄になったというわけでもない。
睡眠もものすごくスッキリとした目覚めにはならずに、普段通りの睡眠の質に戻った気がする。でも、肌艶はまだそのままであるな。
徐々に自分の性能が衰えていくような感じはちょっと怖かったけど、それも赤いマナナッツを食べる前の水準で下げ止まりして良かった。
反動で元の能力以下になる可能性だってありえた。今のところ、副作用というかデメリットのようなものは感じられないのが救いか。
ただ、俺の中で心配事が1つ増えてしまった。それはクロベーの存在である。
「クロベー。お前、最近なんか体調が優れないとかないか?」
「ん? 我は元気そのものだぞ」
クロベーは赤いマナナッツを食べて喋れるようになったし、ダンジョンの外でも生きていられるようになった。
しかし、赤いマナナッツの効果が永続ではないとすると、いつかはクロベーは元のモンスターに戻ってしまうかもしれない。
そうなると、クロベーはダンジョンの外では生きていけなくなる。
俺は徐々に効果が薄れてきたから、クロベーの効果が切れるとしたら徐々に苦しくなると言った感じだろうか。
「クロベー。聞いてくれ。俺も赤いマナナッツを食べて力が沸いてくることがあった」
「ほう。それはすごいな。具体的になにが起きたんだ?」
「身体能力が向上したり、頭が良くなったり、睡眠の質が良くなったり……」
「ふむふむ」
クロベーは興味深そうに聞いている。
「でも、今はその効果が切れてしまっている。だから、もしクロベーもマナナッツの効果が切れる可能性があるんじゃないかと思うんだ」
クロベーが赤いマナナッツの影響でダンジョンの外でも生きていけるとしたら、その効果が切れたらクロベーは……
「レンよ。1つ質問しても良いか?」
「ん? なんだ?」
「レンは赤いマナナッツを食べた時に力が沸いてきたのであろう? その力を使って何をした?」
「えっと……本を読んで勉強したな」
「その本の内容は覚えているのだろう?」
クロベーはなにを言おうとしているのかがわからない。けれど、ここは正直に答えるか。
「ああ、覚えている。俺が読んだのは数学の本だけど、マナナッツの効果が切れた今でも同じ問題は解けるだろう。解き方を知っているのだから」
「なるほど……つまり、力そのものは失われたけれど、その力を使って得た能力までは失われていないと」
「……? なにが言いたい?」
クロベーは尻尾を振って背中をぐーっと伸ばしている。
「うまく説明できないが……我も頭が妙にすっきりとして人語が理解できるようになったのだ」
「ほうほう」
「それは頭脳が向上した結果のものであると思われる。でも、その後に知識として人間の言語を覚えた。だからそれが定着したのだと思われる」
「えーと……そうか。つまり、クロベーも赤いマナナッツで頭脳が比較的向上していた。だから、人語を理解できるようになったのか」
なんとなくクロベーの言いたいことがわかった。
「そうだな。我は知識として人語を脳に刻み込んだ。だから、赤いマナナッツの効果が切れたとしても既に身に着いた人語は忘れない」
「えーと……それじゃあ、新たに知識を身に付けることは難しくなったけど、今までの知識は失われてない……」
「その通り。と言っても、それも我の仮説ではあるな」
人語を理解できるようになったのは、赤いマナナッツのお陰ではある。でも、人語を理解する能力じゃなくて、頭脳が向上した結果得られたことだったのか。
「でも、だとしたらどうしてクロベーは瘴気がないダンジョンの外でも生きられるようになったんだ?」
「それはわからない。でも、マナナッツの影響で力が沸いてきた結果、体の組織が変化した。体の組織そのものはマナナッツの影響下にはないから、効果が切れてもそのままだったとは解釈できないか?」
言っていることはギリギリ理解できそうだ……だけど……
「お前、本当にマナナッツの効果切れているのか? それにしては妙に頭が良くないか?」
「むむ、そうだな。しかし、以前よりかは頭はスッキリとしていないし、身体能力も落ちているような気がする」
人間とモンスターとで本質的な効果は同じなのか?
そういえば、俺も肌艶はそのままだったな。睡眠の質が向上したことで肌がきれいにはなったけれど、睡眠の質が下がったことで一旦向上したものは戻らない。
クロベーも肉体に何らかの変化が起きた結果、瘴気の外でも生きていけるように体が作り替えられた。そういうことか。
うーん。例えるならそうだな。自転車に乗ると早く移動できる。それがマナナッツの影響下がある状態だ。
でも、自転車を漕ぐことによって得られる筋肉は自転車から降りても身についている。この筋肉に当たる部分が、クロベーの喋れたりダンジョンの外でも活動できる力になっているのだろう。
「我はたまたま鍛えた延長線上に人語を理解したり、ダンジョンの外でも活動できる能力があった。マナナッツはそれを呼び覚ましたに過ぎないのかもしれない」
「それじゃあ、全てのモンスターがクロベーみたいに喋ったり、ダンジョンの外に出られるようになるわけではないのか?」
「それは我にもわからない。検証してみないことにはな」
うーむ……検証をしたみたいところではあるが、クロベーみたいに話がわかるモンスターばかりではないからな。
悪辣なモンスターに余計な力を与えたら、俺が殺されかねない。
そう考えると俺は運が良かったのかもしれない。たまたまクロベーを手懐けることができただけで、他のモンスターだったら敵に塩を送るだけだったかも。
「クロベー。正直に言えばお前は特別なモンスターだと思う。あんな何もないダンジョンにて、クロベーだけが生まれたことにもなにか意味があると思う」
何もなさ過ぎていかにも意味ありげなダンジョンだしな。あのダンジョンは本当にクロベー以外になにもないのだろうか。
それも調査してみる価値はありそうだけど……いや、そっとしておくか。今の俺はダンジョン配信者じゃない。変に危険を冒したくない。
「レンよ。余ったマナナッツはどうするのだ?」
「うーん……正直言ってこれを食べるには勇気がいるんだよな。量産したら確実に世界は変わると思う。良い方に変わってくれればいいんだけどなあ」
ハッキリと言えば、世の中の全員が善人なら俺はこのマナナッツを量産して販売することを考えていた知れない。
でも、このマナナッツの力は危険すぎる。一般人が銃を持てない国。その一般人に銃を与えるようなものである。
「でも、俺1人に抱えきれる問題ではない。……まあ、俺にはある意味で共犯者がいるんだけどな」
植野教授。俺と一緒にマナナッツを育っている。様々な成育環境で育てている彼は確実にマナナッツを量産できるだろう。
俺がここでマナナッツをせき止めていても、植野教授の考え次第でこれは世に流通してしまうことになるだろう。
やはり、ここは彼に1度きちんと相談しておくべきだと思う。
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