第30話 スローライフ配信者。ダンジョンに潜る
今日は良い朝である。天気も快晴でとても清々しい。
夏の快晴はやりすぎな気がするけれど、秋の快晴はまあまあ良い気候だとは思う。
そんな気持ちのいい朝に朝食を作る。
まずはスクランブルエッグを作ります。ボウルの中に鶏卵と豆乳を入れておこう。
塩コショウで軽く味付けをしてバターを溶かしたフライパンにボウルの中身を投入。
隣のコンロでソーセージも焼いておくか。こちらは加熱済みのソーセージなので少しパリっとする程度に焼く。
コッペパンもオーブントースターで軽く焼きつつ……焼いたソーセージを少し焦げ目がついたコッペパンで挟む。
コッペパンの余った隙間にスクランブルエッグを詰め込んで、後はケチャップをかけて完成。
これが俺流のホットドッグだ! タンパク質が多く取れるマッスルな朝食だ。では、いただきます。
「もぐ……うんうん……んめぇ~!」
焼いたコッペパンのカリっとした食感とソーセージのパキっとジューシーな味わい。肉汁が口の中でブレイクダンスを踊っている気分だ。
それがケチャップの旨みと酸味が絡み合ってオーディエンスを更に沸かせる。
スクランブルエッグのまろやかな味わいも全体のバランスを整えて実に最高の一品だ。
こんな美味い朝食を食べた日は良いことが起こるだろう。
そう思いつつ俺は庭へと向かった。
「お、おお!? なんだこれ!」
マナナッツの実がなんとできている。いや、これ出来ているのか? マナナッツは実は茶色っぽかった気がしたけど、この実はなんか赤みがかっている。
でも、植物は熟すと赤くなるイメージあるんだよなあ。ピーマンも緑から赤に変わるし。
いや、それはピーマンとかトウガラシとかトマトとかその辺だけか? よくわからん。
「これ収穫して良いのか?」
赤から茶色に変わるとかあるのだろうか? 俺はそっとマナナッツの実に触ってみた。
ポロッ……マナナッツの実はあっさりと取れた。
「あ、あああ! と、取っちまった! どうするんだこれ! え? 取っていいやつだったの?」
収穫する気はなかったのに案外ポロっと取れてしまって俺は困惑してしまう。
でも、取ってしまったものは仕方ない。この実は一応もらっておくか。
ただ、今は腹は減っていない。さっき激うまホットドッグを食べたばかりだ。
これは後で食べよう。そう思っていると俺の庭に誰かが入ってきた。
俺は思わず身構えるとその人物は新村さんだった。
「新村さん? あ、おはようございます」
「おお! 蓮君! おはよう。ちょうど庭先に出ていて助かった。実は蓮君に頼みがあるんだ」
新村さんはなにやら困った様子で俺に話しかけている。一体なにが起きたと言うんだろうか。話だけでも聞いてみるか。
「頼みってなんですか? また農作業ですか?」
「いや、今は農作業は落ち着いている。そっちじゃなくて、近くの山にダンジョンができたんだ」
「ダンジョン!?」
こんな田舎にダンジョンができるなんて思いもしなかった。
ダンジョンが発生する地点は人口が多いところに集まる傾向がある。まあ、傾向ってだけで絶対ではないけれども。
「蓮君はダンジョンに潜った経験があるんだよな? 頼む。一緒に様子を見に来てくれないか?」
「一緒? ってことは、新村さんも来るんですか?」
「ああ。俺の他には、真木さんと修二君も来る。とりあえず、今動ける男連中でダンジョンに潜るつもりだ。ダンジョンが危険かどうか確かめないといけないからな」
4人でダンジョン探索か。まあ、俺も1人でダンジョンに潜っていたから、心強い仲間がいれば安心か。
「わかりました。行きましょう」
ちょうどここに通常のマナナッツとは違う赤いマナナッツもある。もしかしたら、これが何かの役に立つかもしれないし。
「助かる。ダンジョンに
新村さんには何度か世話になっている。断る理由はないからな。
「それじゃあ準備をしましょう。ちなみにダンジョン内は特殊な瘴気があるので火器は厳禁ですよ。すぐに火に引火して爆発を引き起こします。銃は撃てませんから気を付けてください」
「ああ。別に俺たちは猟銃の免許とかないからな。その点は心配ない」
よーし、久々にダンジョン配信者として活動するか。現役時代に使っていた武器を使って……
「……あ! そういえば、ダンジョンで使っていた武器は売ったんだった。しまったー……」
ダンジョンにはもう潜らないと思って売ったんだった。こんなことなら、売らなければよかったな。
「まあ、でも撮影用の機材はあるし、それでライトを照らせるんで光源の確保は任せてください」
「ああ。俺はそうだな……クワとかカマを武器として持っていくか」
こうして俺たちは準備を整えて山にあるダンジョンへと向かうことになった。
◇
「ここがそのダンジョンですか」
山のなかにある洞窟。そこは確かにダンジョン特有の瘴気に満たされていた。
「なんか体がぶるぶるするっすね」
修二君の体が震えている。
「瘴気の影響を受けているんだろうね。体がぶるぶるする反応をするだけで、害があるわけじゃないから安心していいよ」
俺は撮影機材で洞窟の入口を照らして内部を見た。入口付近にモンスターの気配はないようである。
「ねえ。狩谷さん。ちょっと質問があるんだけどいいっすか?」
「ん? なに? 修二君」
「どうして、モンスターってダンジョン内からあんまり出てこないんすかねえ」
まあ知らなければ当然疑問に思うことだろう。モンスターが狭いダンジョンの中に閉じ込められている理由があるにはあるのである。
「モンスターはダンジョン内に蔓延している瘴気がないと生きられないんだ。瘴気を取り込まないと1日も経たずに死んでしまうからね」
「あー。たまにダンジョンからモンスターが出て暴れることもあるんすけど、すぐに鎮圧しますよね」
「モンスターも瘴気がないと生きられないから、ダンジョンの外に出るのはよっぽどバカなモンスターだよ」
もし、そういう制約がなければモンスターを捕獲してペットにするような連中もいたかもしれない。
そうしたらペット動画としてモンスターが人気になる未来もあったかもしれない。
今のところ、モンスターが瘴気のないところで生きられる方法は発見されていない。
「さて、おしゃべりはそれくらいにして、装備の確認をしましょうか。俺はとりあえず、でっかいシャベルを持ってきました」
「へへ、俺はスリングショットを持ってきました。いわゆるパチンコってやつです」
おお、修二君はいいものを持っているな。ダンジョン内では銃火器が使えないから遠距離攻撃手段が貴重である。
「私は仕事で使っている丸太を持ってきました」
「俺はクワとカマだな」
真木さんと新村さんもちゃんとした武器を持ってきたようである。
「ダンジョン内では無理は絶対にしないこと。俺の撤退指示にはすぐに従ってください」
「了解!」
3人がうなずいてくれた。よし、いざダンジョンに潜るぞ。
俺を先頭にして、みんなでダンジョンに潜っていく。久々にダンジョンに入るからなんだか空気がぴりついて感じる。
このゾクゾクとする感じ。現代日本では味わうことがなかった生と死の間に立たされているかのような感覚。
これに病みつきになってダンジョン配信者をやめられない人間もたくさんいる。
暗い洞窟内を撮影機材の照明を頼りに進んでいく。
しかし、一向にモンスターの気配がない。そろそろ1体くらい出てきてもいいような気がするけれど……
「モンスター出ないっすね」
修二君がなんか少し残念そうにつぶやいた。
「まあ、モンスターがいないことは良いことかもしれない。このダンジョンを監視する必要もなくなるだろうし」
もし、大量にモンスターがいるなら、モンスターが溢れてダンジョンの外に出ることを考えなければならなかった。
それをしなくて済むのは助かるが……それはダンジョンの奥地まで行ってみないことにはわからないな。
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