銀翼の旅路

ESMA

旅の始まり

ブルルルルル!

エンジンの排気音とプロペラの風切り音が混ざって後方にたなびく。

滑走路に出るとぐんぐんスピードを上げて滑走していく。

後ろのタイヤが上がり機体全体が次々と上に、上にと上がる。

「よし、飛べた」

一安心も束の間、すぐに隊列を組む。

「今日はあのエースの小林がいるから、この作戦は成功だな!」

後方銃座に向かって叫ぶ。

「ああ、しかも小林機はこの隊の配属ときた!」

後方の銃座からも声が飛ぶ。

無線が鳴った。

しかし、無線からは服機嫌そうな若い男の声が聞こえる。

「だまれ」

そっけなく言う。

無線を切った別の機体からは良くない噂も聞こえる。

「あの小林とか言う男、しょっちゅう命令違反しているようだな、命令違反で除隊されないと良いがな」

妬みに似た声がエンジン音に溶け込む。

しばらく隊列を組んで飛んでいくと、前からキラッと太陽を反射するものがチラチラと見えてくきた。

「やっこさんのお見えだ気張ってけ!!」

隊長機からの叱咤激励が飛び、攻撃隊は一層気持ちが高まった。

「了解!!」

士気は十分。

機体を飛ばしてぐんぐんと近づく。

前に、鈍い緑色と灰色を基調に迷彩を施した、数百機の敵機がぐんぐんスピードを上げて突っ込んでくる。

「このまま突っ込むぞ!」

両陣営、スピードをさらに上げて突っ込んでいった。

突如、前の敵機から光が発せられた。

撃ってきた。

こちらも撃ち返す。

「各自、自由戦闘!」

隊長の各隊がバラバラに乱舞して戦闘を開始した。

相手の7.92ミリ弾と20ミリ弾が全て虚しく空を切って前から後ろに飛翔する。

「後ろに付かれた!」

「そっちに行ったぞ!!」

無線からはさまざまな歓喜、悲鳴が入り混じって聞こえてくる。

「うるさいな」

陸は無線を切ってしまった。

「よし、久々に本気を出すぞ」

陸は操縦桿を握り直し、近くの背を向けていた一機に狙いを定めた。

そして、20ミリ砲を、数発撃つとたちまち白煙を上げて地上に真っ逆さまに落ちていった。

「よし、次だ」

さらに、別の機体に狙いを定めて機銃と20ミリ砲を数発。

この機体も羽から黒煙と炎を上げて錐揉みして落ちていく。

そのようなことが数回続き、20ミリ砲の弾が切れた帰投する。

そして滑走路の近くまで飛ぶと無線を開いた。

「こちら小林機、着陸の許可を」

「着陸を許可する」

そして、着陸を難なく終えコックピットから降りる。

すると作業員の喧騒の中から一際偉そうな男が陸に歩み寄った。

その男は開口一番に、

「除隊だ」

短く冷酷に言い放った。

「なぜです!?」

「度重なる命令違反のせいだ、流石にこうも続くと看過できないな、自分を恨め」

「そうか」

「おまけに国外追放付きだ」

「......」

「車は用意してある、それに乗って城門まで行くんだ」

そして車に乗り込むと屈強な男が両脇を挟んだ。

「そんなことしなくても俺は逃げないぜ、ゴリラ」

スキンヘッドの頭を赤く染めるも、あくまで冷静を装ったように沈黙する。

「ほらほら、ゴリラちゃんこっちおいで?」

どうせこの国が最後ならと、言いたいことを言いたいだけ言う。

「おい、この国はお茶もまともに出ないのか??」

どうせ最後ならと、お茶は出してくれるよう。

その間にも景色は流れて城門に近づく。

「着いたぞ、降りろ」

車から降ろされる。

「それじゃあ、せいぜい隣の国まで行くことだな」

そして陸は、少量の食料と水を持たされて門から追い出された。

そして外に一歩出ると、すぐに城門が閉められて陸一人だけになった。

「しょうがない、一人歩くか」

さっき出してもらったお茶の苦味が喉に残る。

「さて、コンパスはと」

いつも貨物機の護衛任務についたりしていたので周りの国の方向はある程度分かる。

陸は方角を確認した後、国に向かって歩く。

「暑い」

呟く。

「暑い」

呟く。

乾き切った灼熱の荒野を陸はただひたすら歩いた。

しばらく一人で歩いていると前に戦闘機の残骸が落ちているのが見えた。

駆け寄ると、胴体で着陸したのか下面は擦れているが、コックピットなどは無事に見える。

「良いものはあるかなっと」

コックピットを見ると、仏が1体横たわっていた。

その傍には、未開封の缶詰と、金属製容器に入った水などが落ちていた。

「俺には何もできないぞ」

仏をコックピットから降ろす。

落ちていた食糧と、水に仏から抜き取った拳銃と弾薬を鹵獲して陸は歩を進める。

「さあ、行こう」

また荒野を歩き出した。

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