第78話 ゴーレムの真価
「強化された……!? あんなの、勝てるのか!?」
おぞましい咆哮を上げるドラゴン。
その黒々とした巨体からは禍々しい紫のオーラが発せられる。
こんなの、いくらツヴァイでも勝てるのか……!?
水晶玉越しに観察している俺たちにすら、絶望的な威圧感が伝わってくる。
「これはなかなか……。ツヴァイ、レベルは?」
「いま確認するであります。……おっと!」
マキナの指示に従ってツヴァイが魔道具を取り出そうとした瞬間であった。
油断するタイミングを見計らったように、ドラゴンが口から黒い球を吐き出す。
あれは、闇の魔力の塊か?
ドラゴンが初めて行った遠距離攻撃に、ツヴァイはやや驚きつつも回避する。
「グァッ!! グァッ!!」
続けざまに魔力弾を放つドラゴン。
それまでとは明らかに行動パターンが変わっていた。
今まで温存していたのか、それともこの状態になって使えるようになったのか。
そのどちらかは分からないが、今まで以上に厄介である。
「そっちがそう来るなら、お返しでありますよ!」
ツヴァイは瓦礫を手にすると、それを思い切りドラゴンへと投げつけた。
もちろん、堅牢な鱗を持つドラゴンにそんなものは通用しない。
しかし、魔道具を取り出す程度の時間は稼ぐことが出来た。
すかさず虫メガネ型の魔道具を構えたツヴァイは、ドラゴンのレベルを喝破する。
「レベル……一千百八十……!?」
ツヴァイがそう告げた瞬間、俺は目を丸くした。
嘘だろ、まさか千を超えてくるなんて!
強敵だとは思っていたが、マキナやツヴァイのレベルを超えるのは想定外だ。
「ツヴァイ、一時撤退だ! マキナと合流するまで待て!」
「ダメであります! そんなことしている間に、街が壊滅するでありますよ!」
「そうは言ったって……」
「問題ありません」
ここで、マキナが不気味なほど冷静にそう言った。
レベル差が百以上あるのに、そんなに落ち着いてて大丈夫なのか?
「一時的に、私と本体のリンクを停止してツヴァイに全計算資源を割り当てます。これで問題なく勝てるかと」
「でも、レベルが上がるわけじゃないだろ?」
「はい。ですが問題はありません、これで計算上は九割以上の確率で勝てます」
マキナがそう言っているうちに、ドラゴンは大きく息を吸い込み始めた。
その口元に、巨大な魔力の塊が形成され始める。
そして――。
「のわっ!?」
魔力の塊が砕け、一気に拡散した。
ここにきて、まさかの範囲攻撃である。
無数の魔力弾がまさしく雨あられのごとく降り注ぐ。
「マスター!!」
「わかった、やってくれ!」
俺はすぐさまマキナに許可を出した。
次の瞬間、彼女の身体がぐらっと大きく揺れる。
「大丈夫か?」
「……問題ありません。リンクを切って、脱力しただけです」
「そうか……」
「それよりも、ツヴァイの方が重要です」
そう言うと、マキナは先ほどまでと違って食い入るように水晶玉を見つめた。
リンクを切ったことで、ツヴァイとの情報共有も行われなくなったらしい。
俺もまた彼女に続いて水晶玉を見つめると、そこには先ほどまでとは全く違うツヴァイの様子が映されていた。
「……すごい」
押し寄せる無数の魔力弾。
ツヴァイはそれをごくごく最小限の動きで躱していた。
ありえない、すべての軌道を見切っているのか?
「次は噛みつきと見せかけて、尻尾で瓦礫を飛ばしてくるでありますね!」
ぼそぼそとつぶやくツヴァイ。
すると彼女の言った通り、ドラゴンが勢いよく突進を始めた。
大きく口を開き、そのままツヴァイを呑み込もうとする。
が、ここで尻尾を器用に使って急制動を掛けた。
たちまち尻尾の叩きつけられた石畳が持ち上がり、ツヴァイに向かって飛ぶ。
……おいおい、ぜんぶ言ったとおりになったぞ!
あらかじめすべてを予想していたツヴァイは、がれきをすべて回避し、奇襲を仕掛けたと思っているドラゴンの身体を殴り飛ばす。
「グオオオオォッ!!」
「右、左、左でありますな!」
またしても、予言めいたことを言うツヴァイ。
ドラゴンは上体を持ち上げると、彼女の言った通りの順番で攻撃を仕掛ける。
これはいったい、何が起きているんだ?
ツヴァイのやつ、急に予知能力にでも目覚めたって言うのか?
俺が戸惑っていると、マキナがにわかに語り出す。
「すべての計算資源をツヴァイに割り振ることにより、彼女の周囲の物体の力学的状態を瞬間的に分析できるようになりました。これによって、ある種の未来予測に近いことができます」
「そんなことが……」
「もちろん、時間も範囲も限定されますので長期的な予想などは全く不可能ですが」
それでも、戦闘時においては無敵に近い能力である。
マキナがツヴァイの勝率を九割以上と見越したわけだ。
しかし、ドラゴンの方も負けてはいなかった。
ツヴァイに一方的に攻撃され続けるものの、恐ろしいタフさでくらいついてくる。
いつの間にか、先ほど殴った時に出来た傷が塞がっていた。
「グオオオオォッ!!」
健在を誇示するように、咆哮を上げるドラゴン。
するとツヴァイはふむふむと頷きながら言う。
「なるほど、外部から供給される魔力で身体を瞬時に癒しているのでありますね。それならば……」
そこで言葉を区切ったツヴァイ。
やがて、彼女のどこか楽しげな笑い声が響き始める。
「魔力が切れるまで、殴るのを辞めないであります!!」
次の瞬間、疾走したツヴァイはドラゴンの懐へと飛び込むのだった。
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