第59話 驚愕のゴーレム
「あ、来た来た! 待ってたわよ」
館の応接室へ向かうと、そこにはすでにエリスさんの姿があった。
俺が来るまでの間、彼女が代表者として応対していたらしい。
その向かいには、商人らしき身なりの良い男と武装した男たちがいた。
いずれも耳が尖っていて、エルフの特徴がはっきりと表れている。
「こんにちは、俺がこの街の領主のヴィクトルです」
「これはまた……ずいぶんとお若いですね?」
俺の顔を見て、意外そうな顔をする商人。
エルフの感覚でも、これだけ若い領主というのは珍しいようだ。
「いろいろと事情がありまして」
「そうですか、これは失礼を。私はリフォルス、エーテリアス魔導王国にて商人をしております」
そう言うと、リフォルスさんは深々とお辞儀をした。
ここでエリスさんが、彼について簡単な補足をする。
「何でも彼、もともとコボルトたちと取引をしてた商人みたいよ。名前を確認したら、何人か覚えてる人がいたわ」
「そうだったんですか。それはそれは、うちの領民たちがお世話になりました」
「いえいえ、こちらとしてもコボルト族との取引は有益でしたので」
謙遜するように首を振るリフォルスさん。
彼は周囲を見渡すと、どこか落ち着かない様子で言う。
「しかし、ずいぶんな変わりようですね。たった半年ほどでこれだけの街を作り上げるとは、人間もなかなか大したものです」
「この街のほとんどを作ったのは、人間じゃなくてゴーレムですよ」
「ほう? それはまた、優れた術師が多く抱えていらっしゃるのですね」
「いえ、うちのゴーレムは自律式なので」
俺がそう言うと、リフォルスさんの表情が変わった。
彼はそのままおやっと首を傾げる。
「自律式? どういうことですか?」
「文字通りの意味ですよ。うちで運用されてるゴーレムは、自分で判断して仕事をこなすことができるんです」
「それは素晴らしい。物資の運搬などですか?」
「ほぼ何でもできますよ。あれ、見てないんですか?」
俺は部屋の端に立っているランスロット型に目を向けた。
それに合わせて、リフォルスさんもまたランスロット型を見る。
「あの騎士がどうか?」
「気づいてませんでしたか。あれ、ゴーレムですよ」
「えっ?」
信じられないとばかりに固まってしまうリフォルスさん。
彼の後ろに控えていた冒険者たちも、互いに顔を寄せてざわつく。
「これも当然でしょう。一般的に広まっているゴーレム技術と比較して、ランスロット型はかなりの高性能ですから」
そう言うと、マキナはゆっくりとランスロットの傍まで移動した。
そしてその首に手を掛けると、手際よく取り外してしまう。
そしてランスロットの身体を傾けると、その空っぽの中身をこちらに見せた。
「なっ……!! 本当にゴーレムなのですか……!?」
「もちろん。むしろ、私もゴーレムですよ」
メイド服の袖をまくり、腕の関節部分を露出させるマキナ。
身体のほとんどを人工皮膚で覆われたマキナだが、そこだけは人ではおよそあり得ない球体関節となっていた。
それを目の当たりにしたリフォルスさんたちは、いよいよ信じられないとばかりに目をぱちぱちとさせる。
「ほ、ほう……凄まじいですな……」
「クロウラー退治の時とかにもゴーレムは使ってるんですけど、聞いてなかったですか?」
「ええ……あいにく、私どもは騎士団とはそこまで繋がりがないものですから」
……なるほど。
もともと、辺鄙なコボルト村までわざわざ行商に来ていた人である。
言っちゃ悪いが、国の中枢に食い込むような立場の商人ではないのだろう。
そこまで情報が行き渡っていないのも、ある意味当然と言えば当然か。
「信じられないのも無理はないでしょう。他にはない技術ですから」
「そ、そうですね……。しかしこうなると……ううーむ……」
「どうかされたのですか?」
「いや、この街の予想以上の技術力に驚きまして……。何をお売りしようかなと」
困ったような顔をしているリフォルスさん。
どうやら、持ってきた物品が俺たちには売れないものだと判断したらしい。
参ったな、せっかく来てくれた商人さんを手ぶらで返すわけにもいかないし……。
かと言ってこちらも、今はサルマトさんが留守で動きづらい。
大きな商談などは、出来るだけ彼がいるときにまとめたいところだ。
「わざわざここまで来てもらったわけですし、しばらく街に滞在しますか? こちらもちょうど取引を担当している者が不在なのですが、彼が戻ってきたらいろいろお話もできますし。あと、外部のお客さんに見て欲しいところもあるので」
「見て欲しいところ?」
「将来的に、うちの街は魔導王国からの冒険者さんなどを受け入れていきたいと思っているんです。なので、宿の応対とか諸々を見て感想を貰えたらと。滞在費はこちらで出しますから」
「そういうことですか」
リフォルスさんは腕組みをすると、ふむふむと納得したような顔をした。
彼の後ろに控えている冒険者たちも、そう言うことならと協力的な雰囲気だ。
「じゃあさっそく、宿の方へ行きましょうか。ところで……」
そう言うと、俺は男たちの抱えている大きな黒い円盤へと目をやった。
恐らく金属で出来ているそれは、車輪がついていて動かせるようになっている。
形状からして、何か物を運ぶための台車か何かだろうか。
わざわざここまで運んできたことからして、恐らく商品なのだろうが……。
「これですか? ええっと、物を運ぶための台車ですよ」
円盤を床に下ろすと、軽く動かして見せるリフォルスさん。
すると、何故か理由は分からないがその台車だという物体から猫の鳴き声が聞こえてくる。
「あはは……。こ、これはちょっとした遊び心でしてね」
「へえ……。なかなかおもしろいですね! ひとつ、いただけますか?」
「いやそれは……。また後で交渉いたしましょう」
そう言うと、リフォルスさんは台車を後生大事に抱え込んでしまった。
どうしてだろ、売りに来たんじゃないのかな。
俺はその不可解な行動を疑問に思いつつも、彼らを宿へと案内するのだった。
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