第43話 ダンジョンの可能性

「とりあえず、みんな無事でよかったよ」


 クロウラーが襲来した翌日。

 ダンジョンの中へと避難していたコボルトたちも無事に外へ出てきた。

 あとは、周辺の片づけさえ終われば一件落着である。


「ひとまず、村の中と町までの道を優先して掃除しています。二、三日もあれば元に戻るでしょう」


 ゴーレムたちに指示を出しながらマキナが言う。

 この分なら、被害は大したことにはならないだろう。

 本当に、あのとんでもない危機をよく無事に乗り切れたものだ。


「いやはや、領主さまが居なければどうなっていたことか……」


 ここで、ムムルさんが俺に向かって深々と頭を下げた。

 それに合わせるように、その場に集まっていたコボルトたちが一斉に首を垂れる。

 その様子はまるで、俺のことを崇拝しているかのようだ。


「ははは、俺はただ避難してくださいって伝えただけですから」

「とんでもない! 危険を顧みずに駆け付けてくださったこと、誠に感謝しております! この村の者は永劫、感謝し続けるでしょう!」


 マキナに引き続き、コボルトたちまで俺への想いが高まりすぎている気がする!

 こちらとしては、普通に働いてくれていればそれでいいんだけどなぁ。

 もちろん悪いことではないが、ほどほどに領主としてやっていくつもりの俺としてはちょっと気持ちが重いぞ。


「あとは、無事に魔石を売ってもらえれば万々歳ですね」

「ああ、早いうちに魔導王国へ行くとしよう。ただ……」

「ただ?」

「現物はまだ見てないけど、とびっきりの魔石だからね。代価を用意するのが大変かもしれない、鉱山もやられちゃったし」


 被害が軽微だったとはいえ、まったくなかったわけではない。

 特にお山の周辺は、俺たちが逃げ込んだせいかかなり荒らされてしまっていた。

 鉱山も採石場もほぼ壊滅状態で、ゴーレムを動員しても再建には少し時間がかかるだろう。

 

「さようですか。私としても今回の一件で改めて力不足を痛感しましたので、早めに新しい身体が欲しかったのですが」

「力不足って、増殖型とか見てて怖いぐらいだったけど……」


 クロウラーの群れを呑み込んでいく増殖型の姿は、ある種、神々しいほどだった。

 あれほどの存在を生み出しておきながら、まだ力が足りないのか?

 するとマキナは、フルフルと申し訳なさそうに首を横に振る。


「あれは今のところ、かなり特殊な相手にしか使えません。非常に戦闘力が低く、魔石を何の抵抗もなく奪えるような相手でなくてはダメなのです」

「じゃあ、ある意味でクロウラー特化型みたいな?」

「ええ。さらに研究を進めていけば、様々な可能性はありますが……いまのところは。ゴブリンの群れにも通用しないでしょう」


 なるほど、それだと六王への抑止力として増殖型を使うことは難しいな。

 マキナ自身の強化が必要そうだ。

 しかし、どうやってそれだけの資源を捻出したものか……。

 お山はそんなに大きくないから、希少鉱石などはそろそろ掘りつくしてしまう可能性だってある。


「何か稼ぐ方法はないものか……」

「そう言えば領主さま。ダンジョンに避難した際に、せっかくなのでランスロットⅡ型を使って調査を行ったのですが……。その、六階層目がありましたぞ」

「え?」


 ムムルさんの報告に、俺は耳を疑った。

 前にアリシアさんたちから聞いた話では、五階層しかなかったはずなのだ。


「それ、ほんとなの?」

「嘘など申すはずがありません。何度も確認しましたが、確かに六階層ありました。加えて、階層主の種類も変化していたようです。ランスロットⅡ型が倒したので、直接見たわけではないのですが……」

「でも、アリシアさんたちが間違えるはずないんだよな……」


 俺がそういうと、ムムルさんはまっすぐな眼でこちらを見てきた。

 うーむ……これはどういうことだろう。

 アリシアさんたちも信用できるが、彼らコボルトたちが嘘や勘違いをしているとも思えない。

 慎重な性格をしている彼らのことだ、何度も確認はしているはずだ。

 奇妙な意見の食い違いに、俺は頭を悩ませる。

 するとここで、マキナが言う。


「……ひょっとすると、ダンジョンが成長したのかもしれません」

「この短期間で?」

「はい。それしか合理的に説明する方法がありませんので」

「でも、そんな簡単にダンジョンが育つとはなぁ」

「ひょっとすると、限界まで人が入ったことが影響しているかもしれません。たくさん人の出入りがあると、育ちやすいなどが考えられます」


 可能性として、あり得なくはないのか?

 そうだとするなら、どんどん人を呼び込んでダンジョンを育てる必要があるな。

 ダンジョンが育てば、資源不足も一気に解消するからな。

 いっそ、エンバンス王国に報告して人を集めるか?

 いやでも、それをやるとイスヴァールを国に取り上げられる懸念がある。

 基本的に亜人を敵と考えている王国が、コボルトたちの居住を認めない可能性だってあるし。

 

「こりゃまた難題が増えたな……」

「あとで、アリシア様たちにも意見を伺いましょう。ダンジョンを管理していくにあたって、冒険者の意見は重要です」

「そうだね。またみんなの意見を聞いてみようか」


 こうして、とりあえずの方針を決めた時であった。

 掃除を終えたばかりの道を通って、イスヴァールの方からガンズさんが走ってくる。


「おい、やべえことになったぞ!!」

「どうしたんですか?」

「王国から人が来た!!」


 え、ええっ!?

 思いもよらぬ報告に、ひっくり返りそうになる俺。

 どうやら、一難去ってまた一難ということのようだ……!


――――――――


ここまでお読みくださってありがとうございました!

クロウラー編はここで終わり、次回から賢者来訪編が始まります!

ランキング上位を目指していますので、ぜひ評価やフォローをいただけるとありがたいです!


また、新作の投稿も始めました!

のんびり屋さんのエルフが異世界を漫遊する、スローな感じの作品です!

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