第11話 ドラゴンの防具

※内容修正を行いました

以降の話には影響ありませんので、改めて読み直す必要などはございません。


――――――――――――


「よっしゃ、出来たぞ……!」


 炉作りから始めて、ひたすら作業をすることおよそ三日。

 曲げた鱗を張り合わせ、ついに三着の鎧が完成した。

 ドラゴンの鱗を使った念願の防具である。

 それぞれ、あらかじめ三人から採寸した型紙に合わせて作ってある。

 曲げた鱗を圧着しただけの素朴な作りだが、素人にしては悪くないだろう。


「マスター、柵の建設が完了しました」


 俺が喜んでいると、マキナが建設工事の完了を告げに来た。

 ちょうどいい、これで安心してアリシアさんたちを送り出せるな。

 彼女たちがいなくなって拠点の防御力が落ちても、防壁で補えるだろう。


「ちょうどこっちも防具が出来たところだ。アリシアさんたちを呼びに行こう!」

「はい、承知いたしました」


 俺はすぐに、皆のたまり場となっている村はずれの訓練場へと向かった。

 するといつも通り、アリシアさんとガンズさんが木の人形に向かって武器を振るっている。


「はっ! たぁっ!」

「うおおおっ!」


 二人ともずいぶん気合が入っていて、俺の姿など目に入らないようだ。

 そして訓練に励む彼らを、ミーシャさんが本を読みながら見守っている。

 現代魔術大全……か。

 なかなか本格的な本を読んでいるな。

 読書に夢中になっているらしく、こちらも俺の姿は目に入っていないようだ。

 こうなると、ちょっと悪戯したくなるな。


「ひゃっ!? ヴィクトル様!?」

「こっち来てるのに、気づかないからつい」


 本をサッと取り上げると、ミーシャはビクッと肩を震わせて驚いた。

 彼女の声が耳に届いたのだろう、アリシアさんとガンズさんもすぐさま訓練を辞める。


「訓練に夢中になって気づきませんでした! いくら拠点内部とはいえ、周囲への警戒を怠ってしまい誠に申し訳ありません」


 深々と頭を下げるアリシアさん。

 どうやら、俺が怒っていると勘違いしたらしい。

 慌てて違う違うと手を振る。


「そうじゃなくて。防具が出来たから呼びに来たんだよ」

「おおお! もうできたんですか!」

「すご! 流石はヴィクトル様!」

「あっちにあるから、さっそく見に行こう」


 こうして皆を連れて炉の前に戻ると、マキナがすぐさま置かれていた鎧を手にした。

 そして手際よく三人に配る。


「これがドラゴンの鱗の鎧か……!」

「いい仕上がりですね! ヴィクトル様は、防具鍛冶のご経験もあるのですか?」

「ないよ。まぁ、ゴーレムを作るために色々と技術は習得したけど」

「それでこの仕上がりとは……まったくすさまじい」


 こうして話しているうちに、三人はそれぞれに鱗の鎧を着用した。

 よしよし、サイズはぴったりだったみたいだね。

 小柄なミーシャさんから大柄なガンズさんまで、上手く合せられたようだ。

 するとここで、ミーシャさんが言う。


「胸の部分がちょっとキッツイかな? 大きくできない?」

「……見栄を張るな。お前はいつもそうやってローブの胸の部分を無駄に大きくするが、鎧でそれをやるとズレて怪我をするぞ」

「は、張ってないって! で、でもそうだね、別にそんなきつくないかも……」


 何だかちょっと切ないものを見てしまったが、まあそれは良しとしておこう。

 問題は、防具の着心地と性能だ。


「どうです? 動きやすいですか?」

「ああ。これだけ軽いとは思わなかった」

「意外と柔軟性もありますね」


 その場で体操のような動きをして、鎧の着心地を確認する三人。

 ここでマキナが、急に懐からナイフを取り出す。


「マキナ? いったい何を?」

「これを防げるかどうか、試してみましょう」

「ぜ、絶対に力は入れ過ぎないでよ!」

「もちろんです」


 クルクルとナイフを回し、構えを取るマキナ。

 するとガンズさんが前に出て、胸を手で叩く。


「俺で実験してくれ。相手になろう」

「では遠慮なく」


 スッと姿勢を低くすると、マキナは一気に地面を踏み込んだ。

 瞬間、ナイフを突き出した手が伸びたようだった。

 あまりの動きの速さに、残像が繋がって見えたのだ。

 そして――。


「うおっ!?」


 ナイフが鎧にぶつかり、激しく火花が散った。

 ――キィンッ!!

 同時に金属音が響き、刃先が飛ぶ。

 砕けた刃はクルクルと回転しながら放物線を描き、そのまま地面に突き刺さった。

 

「すごい……!!」

「流石はドラゴンの鱗、あの突きを弾くとは!」


 感心して、思わず拍手をしてしまう俺とアリシアさんたち。

 一方、当事者のガンズさんは額に浮いた冷や汗を拭う。


「死ぬかと思ったぜ。本気すぎだろ!」

「大丈夫です、鉄のナイフでドラゴンの鱗は貫けません」

「そうだろうけど、ありゃ怖いぜ! というか、マキナの動きがやたらよくなってないか?」

「皆様の訓練を見て、学習いたしましたので」

「まったく、これがメイドだって言うんだから末恐ろしいな……」


 顔を引き攣らせてしまうガンズさん。

 一方、アリシアさんはどこか諦めたような口調で言う。


「今に始まったことじゃない。気にするな」

「まあ、それはそうなんだがな」

「それより、この鎧は素晴らしい性能です! これなら、大樹海のモンスターにも対抗できるでしょう!」


 改めて、アリシアさんは満面の笑みでそう言った。

 ガンズさんとミーシャさんも、戸惑いながらもすぐ嬉しそうな顔をしてくれる。

 良かった、これでこそ防具を作った甲斐があるという物だ。


「そんなに喜んでもらえると嬉しいよ」

「当然です! これだけの鎧なら、街で買えば金貨十枚はしますよ! むしろ、ほんとにいただいていい物かどうか……」

「ドラゴンの鱗だからねー。確かにそのぐらいはしそう」

「いや、さっきの突きで傷一つついてないんだぜ? 金貨二十枚はするかもしれん」


 突かれた部分をさすりながら、ガンズさんが言う。

 いやいや、金貨二十枚ってそんなバカな。

 庶民の年収ぐらいはするじゃないか。

 ミスリル製のけっこういい鎧だって、金貨五枚もあれば買えるぞ。

 素人が作った鎧がそんな値段になるわけがない。

 ……これはきっと、俺が領主だからみんな忖度してるんだな。


「いやいや、そんなわけないって。なあマキナ?」

「私の見立てでは、いい線行っているかと」

「マキナまで忖度しないでよ」

「いや、割とみんなマジで言ってると思うぞ?」


 ガンズさんが呆れたような顔でそう言った時だった。

 村の柵の外から、カンカンと打ち木を鳴らす音が聞こえてくる。

 これは……村の警備をしているタロス型が発する合図だ。

 あの方向は、ちょうど新しく作った柵のあるあたりか。


「これは、さっそく鎧の性能を試すときが来たようですね」

「返り討ちにしてやろうじゃん!」

「こりゃ、大勝負になりそうだ」

「俺も行くよ! マキナ、ついて来て!」

「はい!」


 こうして俺たちは、すぐに警報が聞こえる方へと走るのだった。


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