【書籍化決定!】領地のすべてをゴーレムで自動化した俺、サボっていると言われて追放されたので魔境をチート技術で開拓します!

kimimaro

第1話 怒れる父の追放宣言

「俺様は働く必要なんてないんだ!」


 あれは、俺がまだ十歳の頃だった。

 公爵家の御嫡男フィローリ様の学友として選ばれた俺は、ともに家庭教師から領地運営のために必要な経営学の講義を受けていた。

 そこでフィローリ様が、堂々とこう言い放ったのである。

 そしてお気に入りのメイド――とびきり美人で胸も冗談みたいに大きかった――を呼びつけると、すぐにその尻を撫でながら一緒に部屋へと消えて行ってしまった。


 今思えば、まさに甘やかされた大貴族のバカ息子そのもの。

 貴族としてとんでもなく恥ずかしい行動だろう。

 だが、当時の俺はこう思ってしまった。


 ――なんて羨ましいんだ!!

 ――働かずに美人のメイドさんとイチャイチャして暮らしてぇ。


 ……このある意味で純粋な思いを叶えるため、俺は猛烈に努力をした。

 伯爵家の三男坊という俺の地位では、普通は領主として働かなければならない。

 それを回避するため、俺はまずゴーレムの技術に目を付けた。

 戦場に置いて、使い捨ての兵士として用いられることの多かったゴーレム。

 その単純な論理回路を複雑化させ、さらに古代技術の要素までも取り入れて改良。

 簡単な作業を自律的にこなせるようにしたところで、ゴーレムを活用するための組織づくりも敢行した。


 こうして、ゴーレム技術の開発から足掛け十年。

 俺は父に任されたアルファドの街の仕事をほぼすべて自動化することに成功した。

 働きたくないという欲望の強さが生んだ、日々の努力の賜物だった。

 夜を徹しての研究や作業はもちろんのこと、高価な技術書を購入するため、貴族らしからぬ徹底的な節約生活にも耐え抜いた。


 そう、何だかんだ俺は楽な生活をするために馬鹿みたいに努力をしたのである。

 伯爵家の人間なのに、黒パンひとつで一日を耐えて、毎日のように机に突っ伏して寝た者など世界でも俺ぐらいだろう。

 それだというのに父は――。


「まさか、お前がこれほど怠け者となってしまうとは……。私の教育が悪かったようだな」


 久々に父から呼び出された俺は、いきなりこう言われて耳を疑った。

 慌てて理由を聞くと、父はすぐさま眉をひそめて言う。


「お前が近頃まったく仕事をしていないと使用人から告発があってな。密偵に調査をさせたところ、まさにその通りだった。何だこれは! 特に最後の十日間は食事と沐浴以外は部屋から出ていないではないか!」


 そういうと父は、密偵の作成した調査報告書らしきものを手渡してきた。

 それにはここ一か月ほどの俺の行動記録がしっかりと記されていた。

 うーむ、我ながらびっくりするほど引きこもっているな……。

 領主としての仕事をしたのは、一か月間でわずかに二時間だけ。

 それも貯まっていた書類にサインをしたのみである。

 それ以外の時間は、部屋で新型ゴーレムの研究を行っていた。


「平気です、アルファドの街はこれで回るように自動化されています」

「何が自動化だ! 領主たるもの、民のために汗水を垂らして働くことこそ正道! 現に伯爵家の当主であるワシなど寝るのを惜しんで働いておるわ!」

「いや、それほど仕事量が多いのは非効率だからなのでは……」

「うるさい、意見をするな! お前はいま叱責を受けているのだぞ!」


 まさに取り付く島もないという有様であった。

 父は思い切り机を叩くと、堪え切れない怒りを発散するように肩を震わせて言う。


「……どうやら、お前の根性を叩き直さねばならんようだ」

「それは、家に戻れということですか?」

「それでは生ぬるい! お前には、サリエル大樹海の開拓を命じる!」


 サリエル大樹海というのは、王国の北西に広がる巨大な樹海である。

 その面積は俺たちが住んでいるエンバンス王国が二つか三つ収まるほど。

 この大陸において最大の未開地であり、ここを開拓できれば王国は世界の覇権を握ることが出来るともされているが……。

 この大樹海には強大なモンスターや亜人が住み着き、王国の侵入を阻んできた。

 そのため、これまで幾度となく開拓が計画されてきたもののことごとく失敗。

 ここ百年ほどは完全に放置されているというまさに魔境だ。


「そんなめちゃくちゃな……! 俺がいなくなればアルファドの街は回らなくなります! あの街を支えているゴーレムたちは、俺じゃなきゃ整備できないんだ!」

「問題ない。ゴーレムが動かなくなったところで、また人を雇えばいいだけだろう。以前はそれで回っていたのだからな」

「それは違います! 俺が役人の大半をゴーレムにしてその分だけ減税しなかったら、あの街は潰れてましたよ!」


 俺が父に任されたアルファドという街は、もともと林業で栄えていた。

 しかし、俺が赴任した頃には近くの森を伐採しすぎて衰退しかかっていたのだ。

 そこで俺は街の仕事の大半をゴーレムに任せることで、浮いた人件費分を減税。

 商業を振興することで、どうにか林業が無くても街が成り立つようにした。

 もしここで俺のゴーレムがいなくなって、代わりに人間を雇った分だけ増税されるようなことがあればあの街は今度こそ潰れかねない。

 しかし父は、眉間にしわを寄せて言う。


「そんな話は聞いたことがないな。アルファドの税収は安定していたはずだ」

「それは俺が先んじて手を打ったからです!」

「出まかせを。とにかく、お前がサリエル大樹海の開拓をするのは決定事項だ! 早く荷物をまとめて出立せよ!」


 聞く耳持たんとばかりに宣言する父。

 こうして俺は、魔境の開拓に乗り出すこととなったのだった。

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