オキの国 ネルの国
森山たすく
◆1 ネルの国
まっくらな道を走っていた。知らない場所だった。
森だ――と、
「――!?」
まぶしさに目を細くしながらそちらを見る。赤い光は、流れ星のように近くの草むらへと落ちた。ゆっくり近づくと、落ちていたのは
(なんだこれ? お守り……か?)
それは神社でよく見かけるお守りにしか見えなかった。白い布に赤い糸で、ひらがなの【ひ】のような文字が上のほうに、その下には目のような
――ガサッ。
お守りをぼんやりと見ていると、どこかで音がした。大輝はあわててお守りをズボンのポケットにしまう。すると光は消え、あたりはまた暗くなった。
――ガサッ。ガサガサッ。
草をかき分ける音だ。何かが近づいてくる。大輝が近くの木の
こっちを向いたときに、黒フードの下に白いものが見えた。それは、お面だった。
「ふー……」
そのすがたが完全に見えなくなり、音も聞こえなくなったのを
『おい』
「うわぁっ!」
今度はすぐ近くで声がした。おどろいてつい大輝も声を出してしまう。さっきの黒フードが
『おい、おまえ』
それなのに、声はまた聞こえた。男の人の声だ。こわさに体が固まるが、しばらくたってもやっぱり
「
『おまえ、
「聞こえるから返事してるんだろ!
大輝がそう言うと、なぜか声はうれしそうに笑う。
『くくく……
「出られない……?」
どこかに
『そんなとこさがしたって見つからねぇよ。ここだここ』
「あっ!」
ようやく気づく。声はポケットの中から聞こえていた。急いでお守りを取り出すと、
『ふー、ようやく出られたか』
「お守りがしゃべってる……」
『おまえ、名前はなんていうんだ?』
おどろく大輝にかまわず、お守りはそう言った。おかしなことだらけで頭の中がぐるぐるとするが、名前をたずねられているということは分かったので、とにかくそれには答えることにする。
「
『ダイキか、いい名前だ。おまえ、オキの国から来たんだろ?』
「オキの国って?」
少し考えてみるが、そんな名前の国は知らない。するとお守りは少しだまってから言う。
『……つまり、ニンゲンかってことだ』
大輝は少し考えてから、うなずく。意味がよく分からないが、大輝が人間なのはまちがいないことだ。
『そっかそっか!
「ひらがなの【ひ】が書いてあるから、ひのお守り?」
『んー……ま、そんなとこだな』
【ひ】の守りは言ってガハハと笑う。
『とにかくだ、これで俺様とおまえはめでたく
「ちょ、ちょっと待って!」
あわてて止めた。大輝には事情がさっぱり飲みこめない。
『なんだよ?
「あるよ! なんの話をしてるわけ? だいたい、ここはどこなんだよ?」
『ここはネルの国だよ』
「ネルの国……?」
また聞いたことのない国の名前だった。【ひ】の守りはそのまま続ける。
『そ。で、さっきのヤツが【悪夢の使徒】な。あいつらがネルの国の神さんを
「オレが? でもオレまだ小学生だよ?」
『おまえが何だって関係ねぇのさ。
「……ほんとに?」
『ああ、ほんとだ!』
信じられないような話だ。でも自信満々な【ひ】の守りを見ているうちに、不安やこわさはだんだんと消えていき、大輝の
「それなら、オレ、がんばって神様を助けるよ!」
『おう、そう来なくちゃな! んじゃ、まず俺様をピピ』
「ピピ?」
『ピピピピピピピピピピピピピピ……』
ピピピピピピピピピピピピピピピピッ!
大きな音で飛び起きる。大輝がいるのはベッドの上だった。わけもわからず、しばらくぼんやりとした頭で考えたあと、目覚まし時計を止める。
――そう、いままでの出来事は、全部夢だったのだ。
「くぅぅぅぅぅ……今いいとこだったのに! これから
「大輝! いつまで
「はーい、いま行くー!」
大輝はドアの向こうから聞こえる母の声に仕方なく返事をする。それからのそのそとベッドからおりた。
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