第6話 互いのスキル
時間の経過と共にハウンド三匹の亡骸の大半が塵と化す。
その場には、紫の光沢を放つ鉱物らしき物体が転がっていた。
これが魔物の特徴。
魔物は生命活動を終えると、肉体の殆どが霧散し、〈
肉体が魔力で構成されているからだ。
そして、〈魔核〉と僅かに残された亡骸の一部を持ち帰るのが探索者の仕事だ。
他にもダンジョン内だけに存在する特殊な鉱石を採掘したりもするが、ここみたいに踏破済みで且つ多くの人間が訪れるダンジョンだと既に大半が採り尽くされてしまっているので、あまり採掘は望めない。
狙うとすれば、まだ攻略が進んでいないダンジョンだ。
けどまあ、鉱石採取を目的にダンジョンに潜る機会は当分訪れないだろうから、俺にはそこまで関係のない話だけど。
『はあ〜、よかったあ。どうなることかとヒヤヒヤしたよ』
「すまん、心配かけちまったな。けど、聖凪のおかげで助かった。ありがとな」
「別に礼を言われることでもない。私は、最善だと思う行動をとっただけ」
素直じゃねえな。
思いつつ、周囲を警戒しながら起き上がる。
「千里、周りにまだ敵はいそうか?」
『ううん、今倒した三体だけ。戦闘はこれで終わりだよ。二人ともお疲れ様』
言われて、ようやく一息入れた。
それから今の戦闘を振り返って呟く。
「これがチームでの戦い、か。一人で戦うよりずっといいな」
「……なかったの? そういう経験」
「あるにはあるけど、雑魚だからって何もさせてもらえなかった」
「ふーん。……まあ、確かに探索科にしては弱いよね。特に対魔物との戦闘で一番重要になる魔力操作に関しては、普通科の人間の方がずっと練度が高い。今の戦いで確信した」
おぅ……火の玉ストレート。
事実だから何も言い返せないけど。
「——でも、評判ほど無能ではないのも確か。作戦立案もできるし、その通りに遂行もできてた。それに壁役として自分から魔物に飛び込める胆力もある。実力の低さをカバーするだけのものはあると思うよ」
「お、おう……なんか照れるな」
まさかここまで褒められるとは思ってもなかった。
今まで馬鹿にされるか酷評されるかのどっちかだったから、ちょっとむず痒い。
「私は事実を述べただけ」
「それでもだよ。ありがとな、聖凪!」
にっと笑いかければ、聖凪は嘆息を溢しながら顔を逸らした。
「……変な人。でもまあ、スキルの使いようによっては、今のままでもまだやりようはあるんじゃない? 探索科に入学できたってことは、スキルは持ってるんでしょ」
「——スキル、か。あー、えっと……あるにはあるけど、そっちは魔力操作以上に終わってるんだよなあ」
言えば、聖凪が怪訝そうにこちらを向き直した。
「終わってる……?」
この感じだと、探索科以外にはそこまで知られてなかったか。
それもそうか。
滅多に人前で使うことはなかったし、使わないようにしてたから。
「『
今日の訓練で発動させたが、それもかなり久しぶりのことだった。
口で言うよりも実際に見せた方が分かりやすいが、試しに召喚した盾を見せようものなら、魔力不足に陥ってそのまま帰還しなきゃならなくなる。
自分で言うのもあれだが、何とも不便極まりないスキルだ。
「……って、そうだ。そう言う聖凪はスキル持ってないのか? さっき弾丸に魔力を籠めてただけだったろ」
「そうだね。でも、私の場合は単純に戦闘向きじゃないってだけ。使う機会はあまりないよ。……あまり使いたいスキルでもないけど」
「ん、それって……」
「そろそろ進もっか。まだまだ〈魔核〉と素材集めるでしょ?」
遮るように聖凪が言う。
明らかにはぐらかされた感じはするが、無理に詮索するのも野暮というものか。
「……ああ」
短く応えて立ち上がり、ハウンドの〈魔核〉と亡骸の一部を回収してから、探索を再開することにした。
あれから何度も戦闘を繰り返して、〈魔核〉と素材を集めていく。
戦う相手が良かったのと戦闘に慣れてきたこともあって、以降は最初の戦いほど窮地に陥ることなく、順調に探索を進めていった。
『——おかしい』
しかし、そんな時だった。
千里が強張った声で呟いたのは。
「どうした?」
『ダンジョンに入った時よりも魔物の反応がずっと多くなってる。発生源は……え、ボスフロアから? どうして……普通、ボスフロアに通常の魔物が発生することなんてないのに』
「さあな。でも、とりあえずあんま近づかない方が良さそうだな」
こうなると、引き返すことも頭に入れた方がいいか。
少なくともこれ以上奥に進むのはやめておいた方が良いのは確実だ。
「千里、SNSになんか情報流れてないか確認してみてくれ」
『今やってる。国分寺ダンジョンで何か変わったこと……って、え?』
一瞬、固まってから、
「磨央、聖凪ちゃん! 今すぐダンジョンの外に逃げて!
千里が必死に叫んだ。
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