閑話:クルト&エーリッヒ
兵舎の一室で二人の男が居た。
クルトはガンガンに痛む頭を押さえながら上体を起こす。辺りは暗くなっており、決闘からだいぶ時間が経っているのが確認できた。決闘の勝敗はどうなったのか……痛む頭で思い出そうとするが、肝心な部分を思い出せなかった。
「引き分けらしいですよ」
他に人がいたことに思わず驚く。
声のした方向を向くとエーリッヒがベッド上で本を読んでいた。
「そう……ですか」
結局二人ともこのような状況になってしまったということは、主君に負担をかけたという事か。
クルトは申し訳なさと自分の力が足りなかったことを悔いる。
「公爵閣下は苦笑いしてたらしいですけど、先ほど来られて『たまにはゆっくり休め』と。まぁ公爵閣下はそういうお人柄ですから」
クルトは今からでも手伝いでもと思い、体を浮かそうとしていたが、ベッドに重心を戻す。
クルトは主君の気遣いに少しばかりの嬉しさを覚えながらも、気になることが一つあった。
「……エーリッヒ殿お聞きしても良いですか?」
「どうぞ」
クルトは一つ深呼吸してから、ゆっくりと言葉を紡ぐ。
「その……エーリッヒ殿はなぜ主君をあれほど酷使、というかエーリッヒ殿も主君もあのように仕事に熱心なのでしょうか?」
そう質問されたエーリッヒは苦笑いを浮かべながら本を閉じる。
「別に酷使しているつもりはありませんが……そうですね、言うなれば目的の一致でしょうか?」
「目的?」
クルトがそう聞き返すと、エーリッヒは一つ頷きながら、どこか遠いところを見つめる。
「公爵閣下には目指したい未来がある。そして私はそれを見てみたい」
「未来……」
クルトは心の中で未来と言う言葉を何度も咀嚼する。
ついこの前までは、死ぬことしか考えていなかった身だが、主君と出会うことで前を向けた。なんとなくエーリッヒの言う未来と言うものがおぼろげながら見えてきたような気がした。
「でもクルト殿はそのままで居ていただきたい」
クルトは少し、思考で俯いていた顔を上げるとエーリッヒと目が合う。
「それなりに公爵閣下にお仕えしていますが、感じるのは責任感がある人です。なので時々無理をしてしまいます。クルト殿のように公爵閣下のことを第一に考える騎士も必要だと私は思っています」
「エーリッヒ殿……騎士として感謝します」
主君に捧げられる忠義はたとえ誰か何を言われようが揺らぐものではない。
ただ、それを認められたことにクルトとしてはうれしさを感じていた。
「構いません。同じ主を持つもの同士。共に励みましょう」
「えぇ……ところでエーリッヒ殿は主君に長く仕えているのですよね?」
エーリッヒも新参なほうではあるが、それでも数年を共にしてきているのに間違いはなかった。
「えぇ。そうですね」
「ならば、昔の主君の話を伺いたい」
「そうですね……かなり昔のことは一番付き合いの長いヘルベルト殿に聞いた方がいいでしょうが、私の知見でよければ」
エーリッヒは懐かしむように過去の思い出話を喋り出す。
クルトとエーリッヒの語らいは、真夜中になっても長く続いた。
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