第70話

 約束通り軍を引く手筈なので、俺たちは砦の位置まで後退していた。

 対面した貴族だけとの約束だったので、ヘルベルトやヴェルナーなどの部隊はそのまま他の貴族に圧をかけることになっている。

 獣人族からの報告では、あの約束した貴族も軍は解散していない。だが、攻撃する素振りは見られないらしい。

 まぁ一応予備兵力的な意味合いもあり、俺たちは砦にとどまることとなった。


 だけど、暇だな……。


 俺は椅子に座りながら、日向ぼっこに耽る。

 時折、前世の記憶や現状の情勢の整理のために手帳を取り出して書き込んだりする。だけど、基本暇なことに変わりはなかった。


 俺は隣の立つクルトに目をやる。


「クルト。最近どうだ?」


 いや。話下手か。

 暇すぎて、クルトに話題を振ったがあまりにも下手すぎた。


「充実した日々を送っております」


 それでも律儀に返してくれるから優しいんだよな。


「そうか。最近困ったこととかないか?」


 そう問いかけると、クルトは少し考え込む。


「困ったことですか……ひとつだけ」

「お? なんだ?」


 クルトの上司として、騎士である彼らに悩みには親身になって解決してあげたい。もちろん自分にできる範囲にはなるが。


「休みもいりませんので、主君のそばにずっとお仕えしたいです。なんなら部屋も主君の横にしていただければ……」


 えぇ……。

 なんていうか忠誠ってよりもヤンデレ気味じゃないですか……?

 俺これ大丈夫? 期待を裏切った瞬間うしろからぐさりって行かれない?


「休みは必要だから却下で」


 この世界には前世の週休2日制のような制度は当然だがない。だけど休みは必要だと思うので取らせている。

 結局騎士とか貴族は、戦争になると長時間拘束される。なのでそういう時以外は、休めるときは休んでおきたい。


「休むことでまた頑張れるんだぞ?」

「でも。主君休んでないですよね?」

「うぐっ」


 痛いところを突かれる。

 だってしょうがねーじゃん! 文官の育成って仕事もあるし、人手も足りてないし!

 俺だって休みたいよ……。でも俺がしないといけないこと多いんだもん。


「主君はもう少しどっしりと構えていただきたいものです」

「……善処する」


 まぁでも休みを貰った所で変わらない気もする。なんか周りのみんながせっせこ働いてるのに自分がなにもしないのは心苦しくなるのだ。こういうのを同調圧力って言うんだろうか?

 まぁ。上が休まないと下も休みにくいのかな。

 前世でも上司としての心構えとかそういうの習ってないよ……。


「まぁ今はすることもないですし、主君もお休みください。何かあれば起こしますので」

「……お言葉に甘えようかな」


 俺は椅子から立ち上がり兵舎へと向かう。ふと、とある考えが頭をよぎりクルトの方に振り返る。


「些細なことでも遠慮なく起こしてくれ」


 変に遠慮されても困るしな。


「畏まりました主君」


 おい。ちょっと残念そうな顔をするな。

 俺のことを想ってのことだとは思うからありがたいんだけどね。

 俺はクルトに釘を刺して、兵舎のベッドに潜りこむ。

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