第62話
兵士や主だった家臣を連れて、領都の外の平原を訪れていた。
まぁもちろん目と鼻の先の距離なので、領民たちはなにがあるんだって感じでこちらをチラチラ覗いている。
俺はお立ち台に上ると、自然と視線が集まる。
俺はコホンと一つ咳払いを行う。
「さて。戦いや日々の訓練で飽き飽きしているころだろうと思って、一つ余興を用意した」
俺はボールを脇に抱える。
「サッカーをしよう」
兵士全員がサッカーってなに? みたいな顔をしていたのでルールの説明を行った。
まぁ兵士たちからしたら休ませてくれと思うかもしれない。だけど、ヘルベルトが訓練は一日にして成らず。今日もしごくてやりますかみたいな感じで、行こうとしていたので俺が止めたのだ。
体力錬成よりかは楽しめると思うし、感謝してくれてもいいんですよ?
ちなみにヘルベルトが許可してくれたのはサッカーを知っていたからだ。
この世界に転生してから現代の娯楽を失い、楽しさに飢えていた俺は現代の娯楽を再現した結果がサッカーだ。まぁ布数枚と木の棒だけでいいからね。
ヴェルナーを拾ったのもサッカーのメンバーが必要だったからじゃないよ? 本当だよ?
その後、それぞれの騎士を教官に任命しサッカーの練習を行った後、才能がありそうなメンバーで試合をすることになった。
エーリッヒとヴェルナーとヘルベルトとクルトの計4チームの総当たり戦で行う。
最初に試合を行ったのは、ヴェルナーとクルトで両者の傾向がよくわかる試合運びになった。
守備を少なくし、ガンガン攻撃あるのみのヴェルナーと守備を徹底的に厚くしたクルトの戦いだ。
攻撃側のヴェルナーが終始主導権を握っていたが、カウンターを決められてヴェルナーチームは敗北した。
おいヴェルナーもどかしいからって監督が乱入するな。
試合を行っていると、様子が気になったのか領都の住民も観戦するために近づいてくる。
中には兵士と談笑するものや、賭けをするもの……っておい。胴元してる金羊商会のヤコブじゃないか。軽い軽食なども提供しているが、商魂たくましいな。
次に行われた試合はエーリッヒ対ヘルベルトの戦いだ。
エーリッヒはクルトやヴェルナーと違い、パスを中心とした戦域を支配するサッカーを繰り広げる。
対するヘルベルトは、ハイプレスを中心とした戦術を展開する。
まだ、兵士たちも多少練習したとはいえ、プロのような練度もないのであえなくヘルベルトのチームにボールを奪取されてゴールを決められた。
だけど……なんというかすごい形相でボールを奪いにいっており、見て分かるほど体力の消耗が著しいな。
「なんで彼らはあんなに必死なんだ?」
俺がそうヘルベルトに尋ねると、ヘルベルトは涼しい顔をして答える。
「試合に負ける毎に罰走50本と言いつけましたからな」
鬼か爺。
まぁサッカーも連携が必要になるし、シンプルに走ることで体力の錬成にも繋がる。そして余興にもなる。
兵士や領民たちはサッカーの試合結果で一喜一憂してる。まぁ賭けの結果なんだろうが。
でも俺の当初思い描いていた目的は達成しつつあった。
兵士や領民たちが仲良く交流するのが俺の目的の一つだ。兵士は基本的にスラムや村を追い出されたものたちで、あまり他の領民と関係性が薄かった。
兵士のイメージを改善することは、志願兵を増やす効果や領民との関係性の改善も期待できる。
……まぁ一部の兵士と領民が賭けたチームの勝敗で言い争っているが見なかったことにするか。
試合が全部終わるころには夕暮れになっており、兵士たちも疲労はしているだろうが、その顔には満足感が見て取れた。領民たちも新たな催しを気に入ってくれてるようだ。
定期的に開催してみるかな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます