第61話

「まぁ良いのではないですかな? 内政の補佐と軍事の面において人材が2倍に増えるという事ですから。我々としても、人手不足で悩んでおりましたゆえ。」


 ヘルベルトがそう言うと、みなも確かにといった顔をする。

 騎士の軍事と内政を分業化することで、効率は良くなる。軍事においては強さは必須ではあるが、内政面においては他で代用することも可能なのだ。

 税の徴収は、昨年は金羊商会に任せていた。だが、彼らには彼らで仕事があるし任せっきりというわけにもいかない。

 本格的に統治体制の構築に入ることを意味する。まぁ、それでも時間はかかるし宗教勢力のハイネマン司教とは連携を取り合っていかなくてはならない。


「では、騎士見習い3人の育成はヘルベルトとヴェルナーが。文官の育成に関してはエーリッヒが中心となって他の家臣で行うとする。良いな?」

「「「はっ!」」」


 とりあえず皆は納得しているように見受けられる。

 多少不満はあるかもしれないが、金銭面で補償すれば問題はないはずだ。



 報告会議は終わりを迎え、執務室で政務に勤しんでいると一人の訪問客が現れた。

 ドアが開かれ、一人の男が手を広げにじり寄ってくる。


「やぁアイン。ご機嫌いかがな?」

「元気にしていますよ。それにしても随分とお戻りが遅い」


 お茶らけた兄上を迎え入れつつ、やや適当にあしらう。

 ルメール兄上は少数精鋭の家臣団で救援に来ており、その移動速度は速い。

 それなのに軍より帰還が遅れるのはおかしな話であった。


「さては寄り道していましたね?」

「あぁ。だってすぐ帰ったらまた父上にこき使われるじゃないか」


 俺は大丈夫なのか? という意味を込めて兄上の後ろに控えている兄上の家臣に目線を送る。

 兄上の家臣たちは、どこか諦めているのかのような顔をして首を縦に振る。


「まぁ……父上には大変助かったとだけ報告しておきます」

「助かるよ。やはり持つべきものは優秀な弟だ」


 実際かなり助かったし、兄上にも送ってくれた父上にも感謝している。


「では! 私は暫く、観光してから遠回りして帰るのでね」


 兄上がそそくさと部屋を飛び出すと、それに続くように兄上の家臣も部屋を後にする。

 一人残された俺としては嵐が去ったような面持ちだった。


 強いのに自由人だから、父上も兄上の扱いに苦慮していることだろう……。


 報告書には、ルメール兄上は疲れを領都で癒してから向かいます。としたためた。

 すまん兄上。俺も父上に睨まれるのは嫌なんだ。

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