第57話:東部

 新たな志願兵の募集や東部復興の手配などの戦後処理と、戦に出ていた間にたまった政務の処理など忙殺される日々を過ごしていた。

 少し、落ち着いてきたころに金羊商会のヤコブを呼び出し面会を行った。


「戦の勝利おめでとうございます。公爵閣下」

「ありがとうヤコブ殿」


 東部復興の物資ほぼ全部を金羊商会に依頼して取り揃えた。

 それらの費用は、賠償金に含まれていた宝石類を中心に払った。

 まぁ。宝石を集める趣味もないし、すぐに使える金貨の方が持ってて便利だしね。


 俺は茶を一口啜り、カチャリと音を立て、カップ受けの皿に戻す。


「それで東部の様子はどうだった?」

「そうですなぁ……民衆は概ね好意的です。例の公爵閣下のお話が東部を中心広まっているようです」


 ヤコブも一口お茶を含むが、その顔は煮え切らない顔をしており、何らかの別の要素を含んでいるのが見て取れた。


「何か問題でもあるのか?」


 その腹の内を見せろと言わんばかりに、俺は質問を投げかける。


「実は……領境を超えて、にもその話が広がっております」


 外……つまり、包囲貴族たちの領土にもその話が広がっているという事か。

 俺としては領内の東部を中心に広め、信頼を得ようと思っていたが外にも広がるとは……。


「彼らの反応は?」


 俺が聞いた彼らと言うのは貴族と民衆の2つの反応だ。

 ヤコブも俺の意図するところを正確に把握しており、的確に答える。


「貴族の方々は、今回の敗戦の責任のなすりつけ合いで、それどころではないようですね。北部はヴァイワール伯爵様がいらっしゃいますから勝てないと分かってても、東部で負けるとは想定していなかったようですから」


 父上なら、オーラソードの使い手ぐらい寄越さないと止めることはできまい。

 南部はヨゼフ兄上もいるし、南部は川などもあり防衛が容易だったはずだ。


「そして、民衆ですが……公爵領へ逃亡する兆しが見えております」

「なるほど……」


 うちは他の領と比べても税は低いし、無理に徴兵されることはないと分かれば、身の安全も考えて逃亡する可能性は十分にあり得る。

 東部の逃亡農民の流入は治安や土地などの問題もあるが、悪くない。包囲貴族の国力低下に繋がるからな。

 東部は未だ主戦場になる可能性があるから西部や中央部に振り分けるのがいいだろう。ここら辺の土地は前バルティア公爵と父上との戦いで、いくつか住人のいない村が存在していたはずだ。


「彼らが逃亡しやすいように手引きできるか?」

「う~む。商隊や荷物に紛れ込ませれば可能でしょうが、中々リスキーだと言えます。私どもも公爵領を本拠地としておりますが、他領での取引もありますので」


 バレて貴族に目を付けられたら厄介か……。

 難しい所だな。商会の情報収集能力には大いに助けられているから、彼らが他領での経済活動を行えなくなるのはこちらとしても痛手だ。


「では、逃亡したがっている者たちに逃げ込めば家と畑と食料の支援を約束すると噂を広めてくれ。そして逃亡する際のおすすめのルートなどの地図を配るんだ。地図はこちらで用意する」


 ウォルフなどを使って、比較的に警戒の薄いところを探させればいいはずだ。


「畏まりました。では、ついでに再度食料などの物資も調達いたしましょうか?」

「そうだな。頼む」


 彼らに噂を広めるので、彼らが逃げてきたときの村の修繕や、次の収穫まで食料を支援しないといけない。

 これらは結果的に金羊商会に依頼しなくてはいけない内容だったのも確かだ。

 さすがは商人という所か。


 ヤコブは、茶を飲み干すと仕事がありますのでと言い。応接室を後にした。

 それにしても必要経費だとは思うんだが、賠償金残るかな……。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る