第15話:騎士の一撃

 新兵たちは集団行動など基礎的な訓練をある程度終えた後、実戦を想定した訓練を行っていた。

 彼らには、金羊商会から取り寄せた装備を持たせている。


「おい! そこ! しっかり持たんか! 盾を下げるな!」


 彼らに訓練を施しているのは、長年戦場を渡り歩いたヘルベルトであった。個人的な戦闘の技量はヘルベルトが最も高いため、彼が指導していた。


 彼らには皮鎧と鉄製の従来よりも一回り以上も大きい盾を支給している。金銭的な問題で鉄製の鎧は揃えることができなかった。まぁ、体格がまだ成長しきってないから鉄製の鎧を着るのは難しいだろうが。


 彼らに大きめの盾を支給し、訓練を施すのは俺とヘルベルトの案だ。

 彼らは徴兵した農民兵と違い、給金を払い訓練を施すため金も時間もかかる。

 そのため、生き残ることに重点を置いた。

 父上の戦いを見て、上位の騎士が出た際には農民兵は為すすべもなく蹂躙される運命であった。だが、もしこれで騎士の攻撃の1つや2つでも防ぐことができれば彼らの生存率は上がるはずだ。


「10分ほど休憩!」


 ヘルベルトがそう宣言すると兵たちは糸が切れた人形のようにバタバタと地に倒れ伏す。

 ヘルベルトもこちらに近寄り、地面に置いてあった水筒を手に取り水を飲む。


「爺から見てどうだ?」

「まだまだですな。ですが、隊形など指示も良く通り指揮しやすいですな」

「これからに期待ということか」


 ヘルベルトはこくりと頷く。

 休憩中でヘルベルトも疲れているだろうが座る様子はなく、兵士たちのことを常に見ており、気にかけている。


「まぁ今後のことも考えてというものを味わせようかと」

「アレか……騎士との戦闘も想定しているが、ほどほどにな」


 ヘルベルトは彼らのとこに戻り、個人個人に改善点などを伝えていく。

 長年の戦場の経験からか、目端が利きよく観察している。こういう所がヘルベルトがヴェルナーやエーリッヒのみならず他の騎士からも尊敬される所以だな。


「さぁ! 休憩も終わりじゃ! さっさと立たんか!」


 そう激を飛ばすと、彼らも立ち上がり隊列を整える。

 彼らは急かされるように隊列を形成する。ヘルベルトもその様子を見て満足げに頷く。


「今から貴様らに将来戦場に立った時の備えとして、騎士の一撃を放つ。安心せい。手加減する故、しっかりと盾を構えておけば死ぬことはないぞ!」


 兵の顔に緊張が走る。

 俺も剣の指導で何回かあれ喰らわされたんだよな……。

 彼らは密集陣形でお互いを支え合うように盾を構える。


 ヘルベルトはその様子を見て、剣を構える。

 彼の体から威圧感が増したように思える。才能があるものはオーラというのが見えるらしいが、俺には残念ながら見えることはない。まぁ空気というか雰囲気でなんとなく分かるんだけど。


 ヘルベルトはすぅっと息を吸い込むと、短い吐息と共に剣を振った。

 ギャギャギャィィイインと甲高い音と共に兵士たちは後ろへと弾かれ、尻餅をついた。盾には横一文字に溝が彫られているが、表面上のみで貫通していることはなかった。

 兵たちは自信に何が起きたのか理解できず、放心したようにヘルベルトや周りの仲間を見つめる。


 分かるよ。あの老体から数十人の若者を吹き飛ばす一撃とか意味わかんねーよな。

 ヘルベルトは放心する彼らを余所に、1つ頷き笑顔を浮かべる。

 こういう表情をみると人の好いお爺ちゃんなんだけどな。


「うむうむ。よく耐えたな。だが、盾を手放すとは儂の教育が足りんかったようじゃ」


 最初は笑顔だったのに、後半のセリフと共にプレッシャーが増しその笑顔に威圧感がある。兵たちはおびえた様子で急いで盾を拾うが。時すでに遅し。


「罰としてフル装備で50周じゃ」


 彼らは悲鳴を上げながら追い立てられた羊のように急いで走り出す。

 俺はそんな光景を見て、懐かしさと親近感を覚えた。


 強くなれよ……。

 気分はさながら保護者のようであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る