第4話

「アイン様お連れしましたぞ」


ヘルベルトが執務室に2人の女性を連れてきた。

片方は妙齢の女性で、もう片方は猫耳をした獣人の少女だった。


「猫系の獣人か珍しいな」


俺がそう呟くと、猫耳の獣人はぴくりと耳を動かし、さっと妙齢の女性の後ろに隠れてしまった。


「…申し訳ありません公爵閣下。彼女はレイラお嬢様の専属使用人でして、どうかご容赦を」

「あぁすまないな。別に獣人を嫌ってるわけではないから安心せよ。それで名はなんと言うのだ?」

「…」


やばい。またスルーされたよ。

立て続けに美少女から無視されるとかドMだったらご褒美なんだが…あいにくそんな趣味はないので心が折れそうです。

ちなみに獣人などの亜人種は迫害の対象で国内で見かける獣人のほとんどは奴隷だ。だが、彼女に奴隷の首輪は見当たらず、それだけ信用されていたのだろう。


「私は長年メイド長をしておりますメリアと申します。こちらがミミと申します。レイラお嬢様に再びお仕えできるよう取り計らってくださったこと感謝申し上げます」

「さてね。勝手もわからぬ城ゆえ、経験豊富な者が必要だっただけだ」


そう。父上に対する理由はそういうことになっている。選んだ人間がたまたまレイラ令嬢と仲が良かったというだけだ。

メイド長はくすりと笑った。


「思っていたよりお優しい方で安心しました。これより誠心誠意お仕えいたします」


猫耳少女もメイド長に合わせてぺこりとお辞儀した。


「あぁ。しっかりと頼む。ちなみに、この城には伯爵家の兵もいるゆえ誤解されるような言動は注意してくれ」

「それはもちろんでございます」


俺は時計をチラリと確認する。


「確かこの時間なら中庭でお茶をしているはずだ、会ってくるといい」




この城には中庭があるんだが、それなりの広さで日当たりもいい。

そんな中庭で心ここに在らずの顔をしていたレイラが、猫耳少女を見て驚き、手を繋ぎ涙していた。

涙は流していたが、その笑顔はここに来て初めて見るものだった。


「初めてみたな…あんな顔」


俺は中庭の入り口の壁にもたれかかり、その様子を眺めていた。


「改めてご配慮感謝します公爵様。それにしてもお会いしなくても良いのですか?」


メイド長の言葉に俺は頭をかく。


「今このタイミングで行っても恩着せがましくみえるだろ?今は純粋に喜んで欲しいんだ。俺のことより君も行ってきたらどうだ?」

「ふふ。そうですね、ではお言葉に甘えて失礼致します」


レイラはメイド長を見た時またしても驚き、笑顔を浮かべていた。


「笑顔がよく似合うな」

「盗み見とは感心致しませんなアイン様」


思わず声がかかり、びっくりして振り返るとヘルベルトがいた。


「おどろかせないでくれ爺」

「はっはっは!まま、そんなことより仕事がまだありますぞ!戻りましょう」


俺は頷き、ヘルベルトの後を追い中庭を離れる。俺はふと中庭は振り返る。


「良かったねレイラ嬢」


俺の呟きは誰にも聞かれず、すぐさま踵を返し執務室へと向かった。






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