邂逅電車

満月 ぽこ

第1話

社会人になり早5年。人間関係も仕事の進捗も何とか波に乗って、社内でも頼られる存在になってきた。けれど、職場には1秒も長くいたくないので今日も定時で帰っている。

急行は混雑が嫌なので各駅停車に乗る。帰宅ラッシュの時間だが、運良く座ることが出来た。会社から数駅はスーツの人間が多く、しばらくすると制服の人間が多くなる。この制服は見覚えがある。私が通っていた高校の制服だ。水色のチェックのスカートと紺のブレザー、女子はスカートと同じ色のリボンかネクタイどちらかを選択出来た。仕事終わりの社会人には色鮮やかな服装と声が電車の中に広がる。自分も昔はこの集団の中にいたので、多少の騒がしさは若さに免じて目を瞑ろう。

適当にスマホをいじっていると、視界の端に見覚えのあるキャラクターが目に入った。黒のブチが入った赤い猫、目には緑と黄色のボタンがつけられている。奇抜なそれはかつて友人と作った自作のキーホールダーによく似ていた。というか、高校時代の私が目の前に立っていた。

髪型、メガネ、制服、鞄、何より自作のキーホールダー、思い出の中の自分と完全に姿が一致している。女子の平均身長よりだいぶ背の低く、集団の中でかえって目立つ。猫背で不安そうに俯いている。よく先生から声をかけられたものだが、客観的に見るとすぐに自殺しそうなガキだな、大人たちの気持ちもよく分かる。仕事で思考停止している脳は、自分が置かれている状況を解明しようとは働かなかった。アルバムを見るようにジロジロ見てしまう。彼女は目の前の大人を気にせず、目を瞑って俯いていた。

ー川崎駅です。反対のドア口が開きますー

 車内アナウンスにハッと顔をあげ、彼女は降りて行った。もう実家を出ているので私は別の駅で降りる。彼女は誰だ、ただの他人の空似ならなんとも思わない。けれど、あれは友人が私のために作ってくれた、この世に一つしかないキーホルダーだ。スマホのアルバムをスワイプして、高校時代に遡る。赤い布を持つ友人の沙那恵と型紙を持つ私の写真があった。そういえば、沙那恵は今何をしているんだろう。


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