ジェネシスキングダム ~ゲームで好きになった美女がリアルではおかっぱぽっちゃりさんだった~

でんりゅう

プロローグ



「よし。告白しよう」


恩師の勧めもあり僕は仲のいいゲーム友達に思いを告げようと決心した。


僕がVRMMOゲーム、ジェネシスキングダムを始めたのは死にたくないからだった。

初めてこのVRゲームに触れたのは一年前の15歳の時。キャラ作成時に選べる育成志向には3つの育ち方があり、最もポピュラーなのがオールランダム。これはステータスの方向性がランダムに決められるが、能力値の合計はぴか一。多くのランカーのこれを選ぶ。あるランカーは魔法主体でやっていたのに物理鬼特化に育ってしまい、仕方ないのでメイスでぶん殴ったら想像以上の強さでそのまま脳筋ランカーになったという話もあるくらいだ。

勿論僕もオールスタンダードを選ぶ気満々だったが、何故かどう見ても選択肢がない。

おかしいと思いログアウトしてみるが結果は変わらない。

せめて能力の育つ方向性をある程度選べるスタンダードにしたかったがそれもない。

あるのは低能力値にしか育たないスペシャルのみ。

このスペシャルのいい点は能力を一点特化で爆速育成できること。

言ってしまえばある人達にはとても役に立つのだが全く汎用性がない。この育成志向を選ぶのはいわゆる生産系の方々。彼らにとっては必須と言っても過言ではない。

つまりこのゲームで全く戦闘をしない農民の方々ご用達の育成志向なのだ。

何故かと言うと、伸ばしたい能力値は最速最高で育つが、能力の全体値はとても低くランカーに肩を並べることは出来ない仕様だ。

僕は絶望した。

僕はこのゲームで戦闘訓練がしたいんだ。ついでに楽しく遊べたらと期待してたがお先は真っ暗だ。

仕方なくゲームを始め、初めは物理特化で俺TUEEと思った時期もあるがすぐに限界が来る。

攻撃力に極振りすれば強かったのかもしれないが、僕は死にたくないという思いが強くあり防御力特化にしてしまった。

そもそもが戦闘訓練のためとスキルを獲得するために始めたので後悔はない。しかし、ソロではジェネシスキングダムを生き抜くの難しかった。


そんな時出会ったのがマリアム。

僕が思いを告げようとしている女の子だ。

彼女は魔法の超特化で物理攻撃も高い。だが誰もが驚くほどの紙装甲。正直ビルドとしては失敗作だ。

紙装甲に未来はない。

完全回避などゲーム上不可能だから、初めはいいとしても必ずお荷物になる。

ちょいちょい離脱する仲間を根気よく待ち続けるプレイヤーなどほとんどいない。ずっと死なずにいてこそ火力も輝くんだ。

必要な時に離脱している仲間に需要はない。


僕は特殊スキルを獲得しているためほとんどダメージを受けない。

だったら防御力があっても意味ないじゃんと思う。僕も思った。だがゲーム仕様で仲間のダメージを肩代わりできるスキルがある。

だから僕らはかみ合った。

僕がマリアムの受けるダメージを肩代わりし続ければ彼女は無敵の移動砲台となる。

二人で最強とまでは言えないが、タッグで進めると言われている限界くらいまでは行ったと思う。

どうしても大人数でしか進めないダンジョン等もあるため、やはりタッグには限界がある。

でも僕は楽しかった。このままでいいとさえ思えるくらいには充実していた。


そんな僕のゲーム話しを恩師はいつもニコニコ聞いてくれた。そしてある時言われたんだ。


真月みつきくん。そんなに好きなら告白すれば?」

「いや、僕はゲームが好きなんであって……」

「彼女がいるから楽しいんでしょ。短い人生、思ってるだけじゃつまらないから行動してみれば?」

「むぅ……」


このせんせい、常に行動に起こせと口酸っぱく指導してくる。行いのない思いは死んでいるというのは師の口癖。



そして今日。

思い切って思いを告げるためマリアムと連絡を取り、20時にゲーム内で待ち合わせの約束をした。


「19時55分か。……行くか」


普段であればもっと早くからゲームにアクセスしているはずだが、緊張して時計とにらめっこしていた。

ようやく重い腰を上げVRゲームへダイブする。


約束の場所は、街から少しだけ離れた人通りの少ない寂れたところ。

唯一川が流れており、モンスターも湧かない安全地帯。ゲーム内で釣りをする人以外は通りもしない喧騒とは程遠い場所だ。


「まだ来てないか。てことは35分は待つ感じか」


ゲーム内では現実と時間の流れが違う。

現実の1分がゲーム内では7分。

単なるゲーム時間ではなく、実際に1分を7倍に引き伸ばして体感できる。つまり7分ダイブしたと思ってログアウトすると現実では1分しか経っていない。7倍に加速した世界がこのVRゲームの真骨頂。

そんな時間を支配するようなこと人間がどうすれば実現できるの? と誰もが思う。このゲームの開発陣や運営もどうして時間が加速した仮想世界を創り出せたかわからないらしい。

このゲームシステムを移植して実験した海外の国々もお手上げ。

完璧にプログラムをコピーしても、ただのVRゲームなだけで時間が加速するようなことはない。

それ以外にもこのゲームには他じゃ再現できないことが数多くある。

開発陣も訳が分からないので、ゲームのシステム全てを公開している。え? 特許とかもったいなくね? と思われるかもしれないが、秘匿として命を狙われるよりましだと開発情報を全て余すところなく提供するが、どの国の技術者もなにをやっても再現出来なかった。日本が基になってるサーバのみが体感時間を7倍にする事ができる。

だから5分前にダイブしても約束の時間まで35分あることになる。


僕は落ち着かない気持ちで深呼吸したり体を動かしたりと、深く考えないように時間になるのをただただ待つ


「ミツキお待たせ!」


元気でどこか落ち着く可愛らしい声がする。


「待ってないよ。今来たところだから」


言ってみたかった台詞を発する僕だが、肝心の待ち人の姿が見えない。


「あれ? どこ?」

「ごめん。こっちだよー。川の対岸」


(え? 何故に対岸?)

川向うに視線を移すと、葦の茂みからひょっこり顔を出した可愛らしい女の子がこっちをみて笑っていた。


「今そっちに行くよ」


はやる気持ちを落ち着けて、それでも駆け出してしまう僕に待ったの声がかかる。


「ダメ! そこから大きな声で言って!」


え? どういうこと。こういうものは近くで見つめ合いながら告白するものだと思っていたが、彼女がそう言うからには仕方がない……のか?

疑問に思いながらも僕は彼女の要望に応える。想定とは状況が少し違うが覚悟は決めている。


「わかった。しっかり聞いてくれ!」

「うん。真剣に聞く!」

「マリアム! 僕は君が、好きだー!」


ド直球。ほんとはいろいろと考えていたが、対岸にいるマリアムに叫ぶ必要が生じたので、ずっと考えていた助長な台詞は全部すっ飛ばして、本題だけを叫ぶ。するとマリアムからも返事がすぐに返ってきた。


「私もミツキが好きよ」


まじかあーー!! と安堵感が僕を包み、そして興奮する。確かに振られる不安はあった。だが彼女が自分に好意を持っていてくれることはわかってはいた。


「じゃ、じゃあ、僕と交際してください!」

「ありがとう。でも……ごめんなさい。私、ネカマなの!」

「嘘だあああああーーーー!!!」


絶叫とともに僕は膝から崩れ落ちる。ジェネシスキングダムを始めた時以上の絶望がそこにはあった。

神は死んだのか? いや僕は神に見放されたのかと、ブツブツ早口で雑草を掻きむしりながら涙を流す。


「ミツキごめん。嘘!」

「へっ?」


嘘? 何が嘘なの? ネカマ? それとも告白はオッケーってこと? 待って。僕は女の子と付き合いたいわけでネカマはストライクゾーンに入ってない。

意味が解らず顔を上げると対岸にマリアムのにっこにこの笑顔が映る。


「私、オランダ人なの」

「え? あー、そうなんだ」


少しそんな気はしていた。日本人離れした考え方してるなーと思ったことが何度もあったから。


「明後日、オランダに帰るの!」

「えっ!?」


本日二度目の衝撃を受けた。

ネカマの件はすっごく気になるが、マリアムが祖国帰る。つまりもう一緒にゲームができない。海外と日本はサーバは完全に別物。海外のサーバにアクセスするには海外にいないとできない。日本を離れると日本で一緒にゲームをすることはできない。

今日は厄日か……。

僕は好きな女の子も、大好きなゲーム仲間も同時に失った。もう何も考えたくなかった。


「ミツキとの関係がすっごく好きだったから、ギリギリまで言えなかったの。ごめんなさい」


ああ、それはわかる。僕が同じ立場でもすぐに言えたかわからない。それくらい僕らは寄り添っていた。


「ミツキはずっごく好き。でも家族のラブよりはまだ下なの」


それもわかる。僕も家族が大事だ。


「家族を捨ててオランダに来てくれるなら結婚してあげる! ……でも無理でしょ」

「……」


無理だ。僕がまだ高校一年生ってのもある。それに僕も家族と離れたくない。って結婚? え? ネカマ? オランダに来い? 聞きたい情報が多すぎる。


「だから、ごめんなさい。……お互い大人ならまた違ったかもね」


大人かあ。どうなんだろう。

だが、ひとつわかったことがある。

マリアムも僕との別れを悲しんでくれてることだ。だって……。


「ミツキ愛してるよー!!」


彼女は泣いていた。僕は違う衝撃で泣いていたが、今はマリアムと同じ気持ちで泣いている。


「僕も、……僕もマリアムを愛してるよ!!!」


そう叫ぶのが精一杯だった。

彼女と歩んだ日々を思い出す。

最初は傷の舐め合いみたいな関係だった。

だが、すぐにお互いを補完し合い僕達はあたかも一人のように息があった。それからはゲームが楽しくて仕方なかった。

彼女と出会って丸一年。

だけど共に過ごした時間も丸一年くらいの年月になると思う。大雑把に8000時間。一つのことに2000時間打ち込めば、その分野で活躍でき8000時間を費やせば一流になれると本で読んだことがある。

僕達は自称一流だ。

それだけの時間を共に過ごしてきた。

ほんとにたくさんの思い出が甦る。これが走馬灯かと益体のないことを思う。


「ミツキ! 今までありがとう。私に大切な日々をくれて、ありがとう!」

「僕も、ありがとう! マリアムと過ごした日々が僕には宝物だよっ!」


その後も僕らは泣きながら、お互いの感謝を言い続けた。

まさか僕達のやり取りを見ていた者がいるとは思いもよらず、恥も外聞もなく僕らは叫び合った。


後に僕はこの時のやり取りを観られていたことに悶絶するのだが、それはまた後の話。

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