第12話 早速捕まる娘達

 アデラレーゼ達の逃走劇から一夜明け、時刻は午前十時頃。


「……逃げる意味あったのかしらね」


「解りません、お姉様」


「アハハ、捕まっちゃったね」


 なんと、アデラレーゼは妹達共々捕まってお城に連れて来られていました。


 舞踏会場だった面影もないくらいに片付けられた広間。


 そこで王子と大臣、そして衛兵達に囲まれているというのに三人に気負った様子はありません。


「いやー、早まった事してなくてよかったよかった……」


「朝っぱらから駆けずり回った甲斐があったってもんっすね」


 それというのも、アデラレーゼ達を捕まえた衛兵達が何か一仕事終えた大工のような明るい表情だというのが大きな要因の一つでした。


 これが犯罪者を見るような責める目であったり、これから重い処罰を受ける人間に対する哀れみの視線だったら気楽では居られなかったでしょう。


「どうして……」


 しかし、アデラレーゼが一番気になっているのはそこではありません。


「どうしてこんな動きが早いのよ……」


 独り言のように呟かれた声には悔しさのようなものがにじみ出ています。


(これじゃあ、何で逃がしてもらったのか本当に解らないじゃない……)


 何も出来ず捕まってしまったアデラレーゼですが、決して何も考えていなかった訳ではありません。


 実際、帰ってすぐに旅行出来る程度に荷物は纏めていましたし、一晩休んで体力を回復したらすぐにでも行動しようと思っていたくらいです。


 巻き込まれるように舞踏会に参加し、予想外の脱走劇を繰り広げた人間として考えれば素晴らしいほどの決断力と言えるでしょう。


「あれだけお義母様、お義母様と叫んでいたら身元はすぐに解るからね。もしそれさえなければ手掛かりは君が逃げる時に落としたガラスの靴くらいしかないし、探すだけでも相当手間取ったんじゃないかな」


 しかし、王子側の行動力はその更に上をいくものでした。


 というのもアデラレーゼが起きた時には、既に屋敷を衛兵で取り囲んでいたからです。


「それでも早過ぎないかしら?」


 これは何も出来ず捕まった事に対する八つ当たりではなく、単純にアデラレーゼが不思議に思っている事でした。


 アデラレーゼの逃走劇がなかったとしても、舞踏会の後片付けなどで城は大忙しの筈です。


 いくら身元が割れているにせよ、あまりにも行動が早過ぎるように思えたのでしょう。


「国外に逃亡するか捕まっている二人を助けようと城に忍び込むか。とにかく放っておくといくらでも無茶しそうな気がしたからね」


「お義母様と魔法使いさんは無事なんでしょうね!」


 王子の言葉にアデラレーゼは捕らえられている二人の安否が気になったようでした。


 あまりに和やかというか、捕まったという感覚が薄過ぎて今までは危機感よりも助けてもらったのに何も出来なかった不甲斐なさが前に出ていました。


 ですが、そもそもアデラレーゼがあっさり捕まったのは二人が理由でした。


 無意識に魔法使いなら何でも出来そうな気がすると思い込んでいた部分があり、ミュリエルを助け出すと言った言葉を疑いなく信じてしまっていたのです。


 しかし、朝家を取り囲んでいた衛兵から二人が捕まっていると聞かされ初めて自分の甘さを痛感したのです。


 自分のせいで二人が酷い目に遭うかもしれない。


 そんな言葉が頭に浮かんだ瞬間、抵抗する気力は少しも湧かず言われるがままに衛兵達に城へと連行されたのでした。


「ああ、それなら問題ない。丁重に扱っているさ」


 短く答えると、王子は指を鳴らして衛兵へと合図を送ります。


 その姿は本で読んだ悪役を彷彿させ、アデラレーゼを不安にさせます。


 しかし――


「いやー、あの時は死んだと思ったんじゃがな。何の因果かこうして紅茶を飲んでおるわい」


「ウフフ、嫌だわ、魔法使いさんったら」


 そこでアデラレーゼが見たのは予想の斜め上をいく光景でした。


 魔法使いとミュリエルがお菓子をつまみながら、楽しそうに紅茶を飲んでいたのです。


「何よ、これ……」


 くつろぎまくりな二人の姿に、アデラレーゼは驚き過ぎて逆にそれ以上何も言えませんでした。


「丁重に扱っているだけだが、何か問題があっただろうか? 紅茶も菓子も手に入る物の中では最良のものだが……」


「えーと、その、不敬罪とかパーティーを無茶苦茶にした罪で処刑になるとか、そういう話じゃないの?」


 丁重に扱い過ぎよ、などと叫ぶ訳にもいかず気後れ気味にアデラレーゼは尋ねます。


「そんな風に勘違いして怯えていたら申し訳無いと思って早急に連れて来てもらった。そもそも不敬罪は形だけのものの筈だったのに、王だからって何してもいいって勘違いしたあの――」


「王子、話が逸れております」


 コホン、とエロイゼ大臣がわざとらしく咳払い。


 どうもエロイゼ大臣的には聞かせたくない類の話らしいです。


「……失礼。出来れば気にしないでくれ」


 王子的にも聞かせたくない話のようでした。


 どこか気まずそうに、強引に話を打ち切ります。

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