親友に恋愛的な意味で大好きだと伝えてみた

水面あお

第1話

 私、有未うみは高校二年生。

 

 中学からの親友である日菜美と、毎日楽しく高校生活を送っている。

 

 けれど、一つだけ困ったことがあった。

 

 それは、私が日菜美ひなみのことを好きだってこと。

 

 友人や親友に向ける好きじゃない。恋愛的な意味の好きだ。

 

 友達になったばかりの頃はそんな感情抱いていなかった。

 それなのに、一緒に過ごすうちになんだか心がおかしくなったみたいに、日菜美相手にドキドキしてしまうようになったのだ。

 

 でも私たちは親友同士。

  

 この気持ちは隠さなきゃ。

 そう、思っていたのに……。


 


「有未のサンドイッチ、美味しそうだね」


 学校の中庭で、お昼を一緒にとっていたときの事だった。

 

 日菜美が横目に話しかけてきた。

 その目は普段よりやや輝いて見える。

 

 サンドイッチは私の手作りで、卵とレタスにマヨネーズが和えられている。市販のものより具を多めに入れているので見た目からしてボリューミーだ。

 

 既に食事が始まってから時間が経っていたこともあって、サンドイッチは今食べているものが最後だった。


「食べる? 食べかけでよければだけど……」


 言ってからハッと気付く。

 

 これでは間接キスではないか。

 

 顔が熱くなり、内心アワアワとしてしまうが、日菜美はサンドイッチしか眼中にないようだった。


「やったぁ! じゃあ、もらいっと」


 私のサンドイッチをパクリと食べる日菜美。

 

 彼女と間接キスしてしまった事実が、私の頭の中を支配する。

 間接キス間接キス……あああああ!

 

「どしたの有未? 顔赤くない?」


「ど、どうもしてないです」


 どうやら顔が赤くなっていたようだ。

 指摘されたことで余計恥ずかしい。


「ならいいんだけど。熱あるなら早退することおすすめするよ」


 日菜美が気遣ってくれる。

 でもごめん、本当にたいしたことじゃないんだ。

 間接キスで恥ずかしくなって悶えてるとか言えない!


「熱はないよ! 元気元気!」


 私は腕をムキッとさせる。

 しかし、筋肉がないため、弱々しい姿を見せつけただけになってしまった。

 そのことに二人で笑った。


 


「うわぁぁあ!?」


 中庭から教室に戻る途中。

 ちょっとした地面のつっかかりで躓いた。

 

 私はよくあるのだ、こういうことが。


「よっと」


 日菜美が私の身体を支えてくれる。

 おかげで転ばずに済んだ。


「相変わらずドジだなぁ」


 日菜美は呆れまじりに笑う。


「うぅ……、ありがと」


 日菜美に支えてもらったことで、身体が触れた。

 

 そのことを役得だと思ってしまった。


 そんな自分に罪悪感を覚える。


「なんか……こんな私でごめんね?」


 勝手に落ち込んでしまい、それが言葉となって口から出てしまう。


「大丈夫! だってあたしそんなドジな有未のこと大好きだもん。嫌いになんてならないよ!」


 日菜美に大好きだと言われて胸が高鳴る。

 

 この高鳴りを私は言葉にする。


「ドジとか言うな! でも、私も日菜美のこと大好き!」

「それくらい知ってるってば〜」


 日菜美が何を当たり前のことをと言いたげに笑いかける。

 

 違う、違うんだ、と私の心の声が訴えかけてくる。


「……恋愛的な意味で大好き、だから」


 気付けば声に出していた。


 心の奥底に秘めていた本音をぽろりと。


「……え」


 日菜美はさっきまでの笑顔を引っ込めて、驚いた表情になる。

 

 私は自分が今言ったことを反芻し始める。

 あれ、まって……やばい?


「ちょちょちょちょっとままままって」

「おおおおちついててて日菜美?」


 日菜美が慌てているので、私もそれにつられてわけもわからずパニックになる。


「……えーと、すみませんもう一度お願いできますでしょうか?」


 日菜美が深呼吸をして訊いてくる。

 

 私も少し心を落ち着かせて、改めて言う。


「その、れ、恋愛的な意味で大好き、だから」


「ごふっ」


 日菜美が突然、鼻血を吹き出した。


「だ、大丈夫!?」


 咄嗟にポケットからちり紙を取り出して日菜美に渡す。彼女はそれで鼻を拭った。


「大丈夫大丈夫、これくらい唾つけとけば治る」

「それ鼻血に対しては使えなくない!?」


 いつもは冷静で同い年なのにお姉さんみたいな日菜美が、なにやらおかしなことを言っていた。


「あの……さ……」


 鼻を拭い終わった日菜美がぽつりと切り出す。


「あたしも、恋愛的な意味で有未のこと、大好きだから……」


「っ!?」


 今恋愛な意味で大好きって言ったよね?

 聞き間違いじゃないよね?

 

 私の心臓が過去一の速さでドクドクと音を鳴らす。


「そ、それじゃあ両想いってこと!?」


「そうなる、ね」


 日菜美は顔を赤くしていた。

 私も顔が赤い日菜美を見て、多分赤くなってると思う。見えないけれど。


「その……さ。あたしの、こ、恋人になってほしいな、なんて」


 日菜美が私に告白してくる。

 告白なんて生まれて一度もされたことなかった。

 

 好きな人に告白されると、こんなに幸せな気持ちになるんだ。

 

 私は日菜美の目を見つめて、こう答えた。


「うん! もちろんだよ、日菜美!」


 そして、教室までの道のりを恋人繋ぎで帰った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

親友に恋愛的な意味で大好きだと伝えてみた 水面あお @axtuoi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画