第5話 ……月野……さんでしょ?

 俺は彼女の背中を見送ってから、遅れて学校へと足を進める。


 俺の家は学校へ行くために電車やバスなど公共交通機関を使うことなく徒歩で学校に向かうことができる。


 俺はスマホに照らされる時計を見て、今の歩くペースでは遅刻すると思い、ちょっとだけ、足のペースを上げた。


「おはよう〜」


「おはようございます〜」


 学校の校門をくぐるとそんな賑やかな挨拶が聞こえてくる。


 俺はいつも通り生徒玄関にて靴を履き替え、

 いつも通り教室に向かう。


 教室に入ると……

 中川さんの席の周りには相変わらず人が集まっている……


 俺はそれを横目に自分の席に座って学校のホームルームが始まるのを待った……


 ……相変わらず……中川さんは、すごい人気だな………


「だ〜れ〜だ!!」


 ……ん? 

 そんな事を思っているといきなり俺の視界が何かに、遮られた。


 ……この声は……


「……月野……さんでしょ?」


「……ふふ! 当たっり!!」


 そういうと彼女は俺の顔面に手をどけて、俺の机の前に姿を見せた。


 ……彼女の名前は、月野雫つきのしずく……緑髪のショートヘアが特徴の、このクラスで一位二位を争う、いわゆる美少女だ。

 だが……何でそんな彼女が、なぜ、俺なんかに話しかけてくるのかは、今だによくわからない……


「えへへ! びっくりした?」


「……まぁ、ちょっとは……」


「なんだね! もっとびっくりしたまえよそこは!」


「いや〜それは無理があるっていうか……」


「あっ! そういえばさ!」


 彼女が前の席に人が今、不在だったため、前の席に座って、話し始めた。


「昨日転校してきた……中川さん! すごく可愛いよね! 昨日から中川さんとおしゃべりしてるけどとっても優しいし! 山田くんも中川さんとお喋りしてみたら?」


「え? 俺は……いっ!」


 俺は咄嗟に彼女の方を見た……

 そしたら、彼女はこっちを見ていた。


「どうしたの? あっちの方向見て、驚いて……」


「あっ! 中川さん!! もしよかったら中川さんもこっち来てよ!!」


 そう言って彼女は手を挙げて、ぴょんぴょん跳ねている。


 すると、彼女は、待ってましたと言わんばかりの速さで机を立ち上がり、

 そこにいる他の生徒に礼を入れ、こっちの席にやって来た。


「……こんにちは……えと……」


 彼女はもじもじしながら月野さんに名前を聞く。


「あ! 中川さんおっは!! こちらの人は山田くんっていうの!! 山田くんはね! 面白いんだよ!!」


 え? 俺が面白い?

 ……全く……俺の何がおもろいというのか……


「ほらほら、山田くん! 中川さんに挨拶して……」


「あっ……そ、その……初めまして……中川さん」

 

 俺は中川さんにあくまで初めて話した風を装った。

 みんなからは俺たちが初対面に見えるからいきなり先ほどのような会話を中川さんとしたら不自然だからな……


「あっ……初めまして……山田くん……」


 そう彼女、中川さんは、小さく挨拶をした。理由は、わからないが……

 そのときの彼女は、寂しそうな顔をしていた。


 そして……いつも通りの授業を受け……ってか、

 そもそも中川さんは、この世界の勉強についていけるのか?

 俺はそれに対する疑問と不安に押しつぶされそうになっていた。


 三時間目が終わった頃……

 次の授業は体育ということで、皆、体育館へと移動を始めていた。


「おい〜行くぞ! 海人!!」


 俺は友人の田中正孝に促され……一緒に体育館に向かった。

 体育館に向かってる途中…………


「そういえばよ! 俺もそれやったぜ、私立金森学園物語!!」


「……ゲフ!?」


「……! どうしたよ!海人いきなりむせて」


「いや……なんでもない! それで……どうだった……」


「それがよ! あのゲームのヒロインの一人であるである中川鈴音だけどよ……なんか、あの転校して来た中川鈴音に何か、似てる気がしてるんだよな!ってか、よくよく考えてみたら名前も一緒だし!!」


 こいつ、なんか妙に感が鋭いんだよな……


「あはは! たまたまじゃない笑」


俺は中川さんの為にもここは誤魔化した。とは言っても俺がもし、本当の事を、中川さんはゲームの世界から来たんだ!! って言っても、信じるわけないけどな……笑


「それで……!! 海人!お前……中川さんの事好きなのか?」


「……はっ?」


 正孝のやつ……いきなり変な事言いやがって……


「……どうしてそう思ったんだ?」


 俺は理由が知りたい為、そう聞いた。


「だってよ〜〜お前! あのゲームの中川さん好きなんだろ! そしたらよ、あのゲームのキャラに似ていて、同じ名前の中川さんの事、ちょっとは、意識しているんじゃないかってな」


「そんなわけないだろ……俺は!! 二次元の中川さんが好きなんだ! 三次元の中川さんには、興味は、ない!!」 


 ……何言ってんだ……俺……

 しかも、俺が言ってる、二次元の中川さんと三次元の中川さんは、

 どっちも同一人物なんだから……


「あはは笑お前はそういうと思ったけどよ……」


「……てか! 早く行かないと遅刻しちまうぞ!」


……えっ? もうそんな時間か?


「やべぇ! やべぇ! 走るぞ! 海人!! 遅刻しちゃうとあの鬼教官にぶち怒られる!!」


 そう正孝が言うと、

 俺と正孝は、一緒に体育館に向けて走った。


 ……ここで言う鬼教官っていうのは、

 俺らの体育の教科担任で、前も遅刻してきた生徒がいたが、

 その時も説教に授業の半分を使うとかいう厳しい先生で、その指導振りから、鬼教官などと、言われている。


「はあ…はあ…はあ…」


 俺たちは、やっとの思いで体育館に着くことができたら。


「……間に合ったな……」


「……おう!!」


 そう、正孝がニッコニッコの笑顔を見せる、それに俺もそれに応えて、

 二人でハイタッチをする。


「……おい! そこの二人!! 何をしている! 早く並べ!!」


「はい!!!!」


 そんな事をしていたら、

 どうやら俺たち以外のクラスの人たちは、体育をするため、皆主席番号順に並んでいたらしい……

 俺たちは、鬼教官に怒られ!シンクロしたように返事をして、クラスの列に並んだ。


 ……今日の体育の内容は、男女ともにバスケットボールだった……

 俺もバスケの練習に熱中していた。

……すると……


「……おい! あれ見ろよ!!」


「やべぇ、超かっこいい!」


 そう、会話するクラスの男子の声が聞こえてきた……


 そのクラスの男子たちの目線は、一人の生徒に注がれていた。

 ……そう、言うまでもなく、ゲームのキャラの中川さんだ。


 ……中川さんは、バスケットボールの試合形式の練習で、バシバシボールをゴールに入れて、点数を稼いでいた。


 彼女は、とても輝いて見えた。

 ……てか、彼女にこんなかっこいい一面があったとは……これは……

 ゲームでも無かったから、わからなかった。


 ……かっこいい……

 俺はそんな彼女に見惚れてしまった……


「おい! 山田! ボール! ボール!」


「……へっ?」


 ……痛っえ!? 俺は、今クラスメイトが投げたボールがたまたま俺の右膝に命中した。


「大丈夫か? 山田すまない!」


「いや……よそ見していた……こっちが悪い……」


 ……ちょっと痛むな……

 ちょっと外に行って、水で冷やしてくるか……


「鬼……先生!! ちょっと冷やしてきます。」


「わかった……」


 俺は鬼教官に言って、体育館の外に出て、

 水を負傷した腕にかけにいった。


 ……俺は水の蛇口をひねり、水を痛む膝にかけ始めた。

 ……すると、一人の生徒がこっちに来て話しかけて来た。


「大丈夫? 山田くん……」


「……中川さん……」


 俺に話しかけてきたのは中川さんだった、

 かなり心配している様子だった。


「ってか、授業抜けて大丈夫なの? 鬼教官に怒られない?」


「なんか、山田くんが心配なので、見てきますって、先生に許可とったから……」


「そうなんだ……俺は大丈夫だよ……これぐらい大した傷じゃないし……」


 俺は、彼女を心配させないように、そう言った。


「それならよかった……あっ、あと、ごめんね、朝、学校で話しかけに行って……迷惑だったでしょ……」


 ……もしかして……俺の朝の発言が……

 それで……彼女は朝、あんなに寂しそうな顔を……


「違うよ……全然迷惑なんかじゃない……中川さんが迷惑じゃないなら全然話しかけていいんだよ……むしろ……俺の方こそごめん……中川さんの気持ち考えずに、あんな発言、言って……」


「本当ー!! じゃあ! 学校でも普通に話しかけてもいいのね!?」


「……うん……」


 彼女は、とても嬉しそうな表情をしていた……


「そういえば……中川さん……運動神経いいんだね……」


 俺は中川さんの事をもっと知りたいと……

 そう思ってそう聞いた。


「……うん! 私、なんだか運動神経いいみたい……なんか、意外だった?」


「いや! そんな事はないよ! とても、かっこよかった!」


 俺は率直に感想を述べた。


「……ありがとう……」


 俺が言葉を漏らすと彼女は、少し照れたようにそう言った。


「それじゃあ……そろそろ戻ろうか! 早く戻らないと鬼教官に怒られちゃうよ……」


「……うん……」


「そういえば……中川さん鬼教官の事、誰か、わからの?」


「うん!! さっき、月野さんに色々聞いたから!」


「……そうなんだ!」


 彼女、中川さんに話す友達ができることは俺にとっても喜ばしい事だ。


 俺と彼女は、体育館に向かって歩き出した……そうゆっくりと……


 体育が終わり、学校は昼休みに包まれた。


 ……やっと〜昼休みかーー!!

 俺は学校の前半戦が終わった事に安堵した。


 すると……一人の足跡がこっちに近づいてくる音がした。


「……海人!! 一緒に食堂で飯食おうぜ!!」


 その足跡の正体は正孝だった。


「珍しいな……お前が食堂で飯食うのをを提案してくるなんて……」


 いつもは正孝と購買に行ってパンや弁当などを一緒に買って教室で食べているので俺は今の正孝の提案が珍しく感じてそう言った。


「たまにはな! 食堂の気分にもなるんだよ! なぁ! いいよな! たまには!」


「ああ! それじゃあ、行くか……」


 俺は食堂でご飯を食べることを了承して正孝と一緒に歩き出した。

 

「ねぇ! 山田くんどこ行くの?」


「え?」


 俺たちが教室を出ようとした時、近くにいた中川さんに話しかけられた。


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