閃光の勇者

バジルソース

プロローグ(1)

 ここは無数の平行世界の1つ。魔法と科学、そしてロマンに満ち溢れた

 そんな世界に数ある王国の中でも、1番の人口と発展を誇る国が、中央国家アスガルス。

 中央国家の名に恥じないほど、あらゆる国との繋がりを持つ貿易都市としても有名であり、人々の活気に満ちている。

 平和な都市として知られているが、どんなに光の照らす場所でも、影は必ず存在する。

 この国は広いく複雑が故に、光の照らさない道が幾つもあり、そこは大抵は犯罪の温床。

 しかし人々はそこは危険と知っているため、腕の立つ冒険者や、影に生きる人間でない限りはそこを通らない。

 そんな人の喧騒から遠ざかった路地裏に、1人の冒険者が歩いている。黒いフードの付いた灰色の革鎧に、腰には2本の短剣を忍ばせている。全体的に細く小柄な身体には見合わないほどの鋭い眼光は、何度も死線を掻い潜ったことを物語っている。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 ……それにしても今日はやけに騒がしい。

 今歩いている路地裏からでも、蒸し暑いだけの日光と喧騒がいやでも感じる。

 喧騒を嫌っている俺だが、そんな俺が向かっているのは酒場だ。まぁ古参の冒険者御用達の酒場だから、よく使ってるんだよな。

 そう黄昏れている間に、また喧騒が聞こえる。

 

 路地裏を出ると、有名な宿街が広がる。酒場ばかりだが、昼でも冒険者で賑わっている。

 様々な酒場が並ぶ中、俺は1つの酒場に入った。

 

 「ここか、『麦畑亭』は。」


 麦畑を思わせる吊り看板意外は、特に特徴はない、古き良き味のある木造建築。

 古参の冒険者達が酒を交わし、互いの経験を共有する場である。

 俺も古参の一人で、ここ十年以上は冒険者を続けているが、そんなことはどうでも良い。

 ウエスタンな扉を開けると、広々とした空間にでる。年季が経っているが、なかなか綺麗だ。店主のこだわりを感じる。

 外からでも分かるほど、今日は盛り上がっているみたいだな。やはり今日も古い顔見知りばかりだ。

 酒瓶を囲んでワイワイとしている屈強な野郎共。英雄伝を声高々に、ハイテンションで語る吟遊詩人。そんな詩人の英雄伝で盛り上がる若者。ポーカーで賭け事をしている熟練の冒険者に、そんな様子を呆れた目で観る姉貴分。


 「……ここも変わらんな。」


 隣を見ると粗末な2人分の席で酒を飲んでいる男が座っていた。その男は、見飽きた満面の笑みでこっちを見る。


 「よう相棒!遅かったじゃねぇか。」

 「悪いなガルド、情報収集で遅れた。」


 俺を相棒と呼んだその男は、屈強なハゲ頭の冒険者。

 装備は同じ革鎧だが、俺が着ている肌を見せないデザインの物とは違い、タンクトップと長ズボン型の物を着ている。

 悪人面に似合わないほどのお人好しで、昔からパーティを組んでいる信頼出来る戦士だ。

 そうして俺は席に座り、店員に麦酒を1つ注文した。


 「今日はやけに騒がしいな。」

 

 人の熱気のせいか、春にも関わらず暑い。黒フードの付いた暗殺者の革鎧では、冷気石が無ければ耐えられないほどに。

 

 「それゃお前、明日はジェネレシア学園の入学式だからな。」

 「ジェネレシア学園……、世界一の冒険者育成機関だったな。」


 この世界は未知とモンスターで溢れている、人々に害をもたらす異形、それがモンスターだ。

 それらを対処し、未知を既知とする存在が、冒険者。そんな冒険者を支援するために、ギルドが設立された。

 しかし、この世界は想像以上に、未知と危険で満ちていた。

 知識の乏しい新米では、モンスター相手に生き残れるはずも無く、死ぬばかりだった。

 だから志願者を育てる必要があった。

 先人が後任を教え、導く。

 それでは数が足りない、もっと公式の機関が必要だ。

 そうして生まれたのが、冒険者育成機関。

 筋のある者、または未知に憧れる者を、若いうちから育て、一人前の冒険者にする。

 いつしかそれは学園と呼ばれた。

 ジェネレシア学園は最初に生まれた冒険者育成機関だった。ちなみに俺とガルドは卒業生では無い。なんなら独学で冒険者になって今に至る。

 ここに集まっている古参共も似たようなものだ。

 

 「だからってこんな人が集まるものかね。」

 

 俺は少し呆れてる。俺達はそこの学園の卒業生でもないのに、たかが学園の入学式の何処が面白いのか。

 相棒は目を見開いている。

 

 「そりゃ盛り上がるだろ!俺達の後輩になるガキ共だぜぇ?」

 「そいつらが後輩になるのは1年後だろうが。学園生の冒険者登録は2年からだろ。」


 個人差はあれど、冒険者は後輩に対する興味が強い。昔から先輩冒険者には、新米をサポートする風習がある。故にどんな人間かを見極めたい興味から来てるのだろう。

 そして冒険者は皆、飲み仲間でもありライバル。お互いが強くなることを望んで、高見を目指す。そうして冒険者は固い絆を築いた。

 まぁ俺は他人に興味も無いから、どうでも良い話だ。

 そう話している間に、麦酒がテーブルに運ばれた。

 早速グラスを口につける。氷がカランとぶつかる音が心地良い。

 あぁ、美味い。冷たい麦の苦味が口に広がる、これだよこれ。

 ここの酒はアルコールが弱いらしいが、俺はこれが良い。そのほうが仕事に支障が出ない。

 

 「あ゙あ゙あ゙、美味い。」

 「お前好きだなぁ、ここの酒。アルコールが少なくないか?」

 「それがいいんだよぉ!」

 「…お前、酔ってないか?」

 「酔ってねぇよ。」

 

  よくここに通っているが、ここの酒のアルコールが少ないとは思っていない。


 「それはそうとよぉ?」

 「……おうなんだ」

 「例の情報って、持ってるのか?」


 プレゼントが貰えるのを楽しみに待っている子供みたいだな。中年のおっさんでそれは気持ち悪いぞ。

 

 「あぁ、持ってるぞ。新入生情報。」

 

 そう言って俺は古い紙を取り出す。

 ガルドが待ってましたと言わんばかりの表情を見せる。

 俺の言葉につられてか、他の冒険者も集まってくる。

 

 「お!やっとか。」

 「春はこれが楽しみなんだよなぁ。」

 「さて、どんな後輩が来るのやら。」

 

 早速寄ってきたか古参共。

 ざっと5人程度ってとこか、狭い席に寄ってくるんじゃない。

 

 「とりあえず見込みのありそうな新入生がまとめてある。」

 「なぁバド、どんなやつがいるんだ?」


 俺の名を呼んだ若い戦士がそう尋ねる。

 俺が持っているこの古い紙は、新入生に関する情報が載ってある。

 伊達に情報屋も兼任してないんだ。これくらいなら朝飯前。まぁ流石に個人名と全員は無理だから、面白そうなやつだけをピックアップして選んだ。

 

 

 

 



 

 

 

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