閃光の勇者

バジルソース

プロローグ(1)

 ここは無数の平行世界の1つ。魔法と科学、そしてロマンに満ち溢れた

 複数ある大陸の1つ、アースガルム大陸の中央には広大な大草原が広がっおり、そこを取り囲む形で、森林、砂漠、雪原、荒野など、様々なバイオームと、多種多様な文明が花を咲かしている冒険の聖地。

 そんな大陸を代表する国の名が、中央国家アスガルス。

 総人口90万を支える大国であり、高度な技術と軍事力を誇る先進国。貿易都市、魔法研究都市として様々な知識、人が集まる冒険のスタート地点。

 この国の特色すべき点は多くあるが、冒険者の始まりの地としての面が強い。

 冒険者とは、未知を既知とする者達、まさにロマン野郎共にとっての天職だ。そんな冒険者の概念が最初に生まれたのが、中央国家であることは周知の事実。

 それ故にこの国を活動拠点とする冒険者や新米冒険者が多く、昼間でも酒場は彼らで賑わっている。

 この国は裏通りが多く、目立つことを嫌う資質の冒険者はよく利用している。

 いくつかある裏通りの1つに、1人の男が歩いていた。

 黒いフードの付いた袖の長い灰色の革鎧に、腰には2本の短剣を忍ばせている。全体的に細く小柄な身体には見合わないほどの鋭い眼光は、何度も死線を掻い潜ったことを物語っている。

 忍び足のような足取りで進む男

ーーバドルド・シャードは冒険者だ。

 彼は仲間に呼ばれて集合場所の酒場に向かっている。路地裏を通っているのは暗殺者としての彼の癖であり、情報収集や索敵を得意とする彼が経験で得た自然の動作と言ってもよい。

 バドルドは暗い路地裏を出て、日光に目を細めつつも周りを見渡す。

 見渡す限り、町を歩いているほとんどが冒険者。ここは王国の南東辺りに位置する酒場街。  

 酒場街とあるが、ギルド、武器屋防具屋、道具屋など、冒険者の為の施設がとても充実しており、この国に冒険者が多い所以の1つである。

 幾つもある酒場を素通り、町通る冒険者を掻い潜りながら、1つの酒場に足を止める。


 

 「ここか、『麦畑亭』は。」


 麦畑の吊り看板意外は、特に特徴はない、古き良き味のある木造建築。

 昔からある酒場であり、古参御用達の店。

 ウエスタンな扉を開けると、嗅ぎ慣れたツンとしたアルコールと湿った木造の匂いが鼻につく。

 広々とした空間にでる。年季が経っているが、なかなか綺麗だ。店主のこだわりを感じる。

 外からでも分かるほど、今日は盛り上がっているみたいだな。やはり今日も古い顔見知りばかりだ。

 酒瓶を囲んでワイワイとしている屈強な野郎共。英雄伝を声高々に、ハイテンションで語る吟遊詩人。そんな詩人の英雄伝で盛り上がる若者。次行くダンジョンに向けて作戦会議をするパーティー。ポーカーで賭け事をしている熟練の冒険者に、そんな様子を呆れた目で観る姉貴分。


 「……ここも変わらんな。」


 懐かしむ感情がつい漏れ出し、酒場全体を見渡して待っているであろう仲間を見つける。

 隣を見ると粗末な2人分の席で酒を飲んでいる男が座っていた。その男は、見飽きた満面の笑みでこっちを見る。


 「よう相棒!遅かったじゃねぇか。」

 「悪いなガルド、情報収集で遅れた。」


 相棒と呼んだその男は、屈強なハゲ頭の冒険者。生傷の目立つ腕は丸太のように太く、胸板も革鎧の下からでも分かるほど厚い。

 装備は同じ革鎧だが、バドルドの着ている肌を見せないデザインの物とは違い、タンクトップと長ズボン型の物を着ている。

 悪人面に似合わないほどのお人好しで、昔からパーティを組んでいる信頼出来る戦士だ。

 そうしてバドルドは席に座り、店員に麦酒を1つ注文した。


 「今日はやけに騒がしいな。」

 

 大通りでは商人や他国の冒険者、亜人種も見かけた。アスガルスは人間以外の種族も多く、治安も良い。人が多いのはいつも通りとは言えど、それにしては、いつもは人で溢れるほど多くはない。


 「それゃお前、明日はジェネレシア学園の入学式だからな。」

 「ジェネレシア学園……、世界一の冒険者育成機関だったな。」


 冒険者を支援するために、ギルドが設立された。

 しかし、この世界は想像以上に、未知と危険で満ちていた。

 知識の乏しい新米では、モンスター相手に生き残れるはずも無く、死ぬばかりだった。

 だから志願者を育てる必要があった。

 先人が後任を教え、導く。

 冒険者の間に根付いている伝統として、今でも受け継がれている。

 しかしそれでは数が足りない、もっと公式の機関が必要となった。

 そうして生まれたのが、冒険者育成機関。

 筋のある者、または未知に憧れる者を、若いうちから育て、一人前の冒険者にする。

 いつしかその機関は学園と呼ばれた。

 ジェネレシア学園は最初に生まれた冒険者育成機関だった。

 ちなみにバドルドとガルドは卒業生では無い。なんなら独学で冒険者になって今に至る。

 ここに集まっている古参共も似たようなものだ。

 

 「だからってこんな人が集まるものかね。」

 

 バドルドは呆れた様子でため息をつく。相棒はそれに対して驚きの表情を見せる。

 

 「そりゃ盛り上がるだろ!俺達の後輩になるガキ共だぜぇ?」

 「そいつらが後輩になるのは1年後だろうが。学園生の冒険者登録は2年からだろ。」


 

 冒険者育成機関とある通り、冒険者としての実践的な教育が行われている。

 一年生は教師の監修の元、いくつかの依頼や調査を請け負い、二年生からは試験に合格することで、冒険者登録が許可されるとのこと。

 冒険者は皆、飲み仲間でもありライバル。お互いが強くなることを望んで、高見を目指す。そうして冒険者は固い絆を築いた。


 (まぁ俺は他人に興味も無いから、どうでも良い話だ。)


 そう話している間に、麦酒がテーブルに運ばれた。

 早速グラスを口につける。氷がカランとぶつかる音が心地良い。

 あぁ、美味い。冷たい麦の苦味が口に広がり、喉を通る。


 (ここの酒はアルコールが弱いらしいが、俺はこれが良い。そのほうが仕事に支障が出ない。)

 

 「あ゙あ゙あ゙、美味い。」

 「お前好きだなぁ、ここの酒。アルコールが少なくないか?」

 「それがいいんだよぉ!」

 「…お前、酔ってないか?」

 「酔ってねぇよ。」

 

  よくここに通っているが、ここの酒のアルコールが少ないと思ったことはない。むしろ丁度いいぐらいだ。


 「それはそうとよぉ?」

 「……おうなんだ」

 「例の情報って、持ってるのか?」


 プレゼントが貰えるのを楽しみに待っている子供みたいだな。中年のおっさんでそれは気持ち悪いぞ。そう思ったが口に出すほどでもないから黙っておく。

 

 「あぁ、持ってるぞ。新入生情報。」

 

 そう言って取り出したのは、情報収集で手に入れた新入生の名簿。

 名簿と言っても、流石な個人名を聞き出すことは出来ず、大まかな実力や種族を、後から書き写した物だ。

 ガルドが待ってましたと言わんばかりの表情を見せる。

 さっきの言葉につられてか、他の冒険者も集まってくる。

 

 「お!やっとか。」

 「春はこれが楽しみなんだよなぁ。」

 「さて、どんな後輩が来るのやら。」

 

 早速寄ってきたか古参共。

 ざっと5人程度ってとこか、狭い席に寄ってくるんじゃない。

 

 「とりあえず見込みのありそうな新入生がまとめてある。」

 「なぁバド、どんなやつがいるんだ?」


 なぜこんなに興味津々なのか。

 どうやら後輩を見極めるためらしいが、本当はただの好奇心なのだろう。

 これ以上急かされるのは鬱陶しいので、そろそろ読み上げることにした。

 

 

 

 

 



 

 

 

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