第3話 日記と言うのは大概が重要アイテム
『B.H.×15.6.××
××と××様が死んだ。
「××様は処刑される××の悪あがきによる巻き添えを食らって死んだ」と兵士たちは言っていたが、果たして本当なのだろうか。
××は××様と古い仲だ。××が××様を易々と手にかけるとは思えない。
国王側は彼らの死を隠してどうなさるつもりなのか。それに加えて、××が死んだことにより××家は全滅となる。それが今後のこの国にどう影響を与えるのだろうか……』
『B.H.××5.×.2×
××家の罰則、そして処刑。
それ以外にも××が何か企んでいるという噂を聞いた。
だが、我々のような平民には何の情報も届いていない。我々はただこの状況を指を咥えて見ていることしかできないとでも言うのか。』
『B.H.××5.6.×2
今日も空が晴れない。
いったい、いつからこんなに空が暗くなってしまったのか。それすらも思い出せないでいる。
国王は相変わらず姿を見せない。国民たちが飢えていく中、彼は何を考えているのだろうか。
嫌な静けさだ。これが嵐の前の静けさではないことを祈るばかりである。』
『B.H.×××.6.2×
今、起こったことを可能な限り記しておく。
城の天辺に雷が落ちたと同時に獣のような遠吠えが街中に響き渡った。
まさか、あれがヴァ××ンの声なのか。国王は本当に召喚させたとでもいうのだろうか。
あの噂が本当なら、この国は――』
――日記はこの文を最後に途切れていた。
本を閉じた時、シエナは息苦しさに深く息を吐いた。自分でも気づかないうちに、呼吸を忘れていたらしい。
──とんでもないものを見た気がする。
日記の背表紙を見つめながら、シエナは口を噤む。
殺された二人の人物。 謎が多い国王側の行動。そして「召喚された」という獣らしき生物。この日記の内容が真実だとしたら、この生物が街を滅ぼしたというのか。
しかし、たかが獣一匹で街一つ滅んでしまうのだろうか。
「最初が『ヴァ』で最後が『ン』……か」
自分の記憶に刻むようにシエナは小さく呟く。
この日記でぼんやりとこの街のバックボーンを掴んだシエナだが、それでもまだ謎は多い。それに加え、胸騒ぎがとまらない。
その胸騒ぎを抑えるように部屋の窓に顔を向けると雨音がやんでいた。窓から陽光は射し込んでこないが、先ほどよりはマシな天気になったらしい。
こんなところにいつまでもいたって仕方がない。そう思ったシエナは日記をベッドの上に置き、一旦部屋を後にした。
まずは、水と食料。それから暖炉の焚きつけ。探すものはまだまだある。
外に出ると雨は霧雨になっていた。この天気だと、もう雷も落ちてこないだろう。シエナは「今がチャンス」とばかりに街の奥へと進んだ。
街は奥へ行けば行くほど栄えていたようだった。
緩やかな石の坂が続く先に白い城が見えた。あそこに行けば、何かあるかもしれない。そう睨んだシエナはひと際目立つ城に黙々と向かった。
破壊され機能していない噴水を横切り、石の坂を突き進む。
石の坂の両端は元々高い塀になっていたようだ。ただし、これも粉々に砕かれた跡があり、何も意味をなしていない。
歩みを進めていくと、塀の奥にだだっ広い広場が見えた。雑草すら生えていないほどの広場だったが、その中央には異様なものがあった。地面に深く突き刺さっている木材の円柱だ。しかもその木材にはシエナのいるところからでもはっきりと見えるほど黒々とした液体がべっとりとついていた。ひょっとしなくても血液だろう。
あの木材は囚人を磔にしていた、いわば処刑場なのだろう。街と城の間に処刑場。国王は罪を犯した囚人を城から見下ろしていたのか。なんて悪趣味なのだろうか。円柱の木材を見つめながら、シエナはそんなことを考えていた。
日記の内容から国王がいい性格ではないことはシエナも予想ができていた。
城には何か残っているかもしれない。ただし、それは水でもなく食料でもない――国王サイドの、あくどい真実だ。
シエナは静かに佇む木を見ながらそう思ってしまった。しかし、それは彼の淡い期待だった。
城は入り口が塞がれるほど崩れていて中に入れなかった。壁もあらゆるところに爪痕がついており、屋根には火事が起きたのか焦げたような跡すら残っていた。レンガ程の強度を前にしても、塀も壁も粉々に崩れている。間違いなく街の建物で一番損害が酷い。
こんな状態なら、おそらく中にいた人たちは――……。
この惨い光景にシエナはただ言葉を失っていた。
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