第5話

 執筆が手につかない。


 文化祭冊子に寄稿する作品の締め切りも、もう迫ってきている。そろそろ完成させないと編集さんの負担が。


 頭では進めなければならないとわかっていても、手が動かない。


 周りの部員も同じような状況みたいで、教室には異様な雰囲気が漂う。

 

 涼花先輩がどれだけ慕われていたかがわかると同時に、その涼花先輩はもういないという事実が重く突き刺さる。その責任の大半は俺にある。


 いや、そんなことより文化祭冊子の作品。画面に視線を戻す。



 

 結局その日、白先輩が戻ってくることはなかった。


 活動終了時刻を回ったので、教室の鍵を閉め、先生に報告をして、帰路につく。


 せんぱいが、しょうせつを、きらいに。


 あの時の歪んだ表情が、何度も蘇る。


 考えるうちに、気づく。あれは怨嗟なんじゃないか。


 俺にこれまでの執筆活動を壊されたんじゃ、ないか。


 俺の文章の力に圧倒され、敵わないとわかってしまったから、俺を恨み、それと同時に、小説のことが嫌いに——。


 それはあまりに傲慢だが、理にかなっているように思える。


 勝手な憶測でしか、ないけれど。


 そうだとしたら、俺はとんでもないことをしたんじゃないか?


 俺は、一人の夢を潰した。


 そういうことに、なる。


 ようやく気付く。なんとなく大変なことをしたとわかってはいたが、改めて言葉にすると、ことの重大さは際立つ。


 家の扉を開ける。


 暗い部屋と、抑圧されるような冷たい空気がじわじわと俺を蝕む。


 無意識にも、俺が先輩を潰してしまったかもしれないのが怖くて、着替えもせず布団に潜る。


 普段ならパソコンを開いてキーボードを叩くはずだが、今はそんな気にもなれない。文化祭に間に合わないなんて、気にしている余裕もなかった。


 ただ、布団に入ろうにも眠ることはできず。ただぐるぐると、自分はなにをしたのか、どうすればいいのか、そんなことばかり考えていた。

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