BSS……それは「僕が先に好きだったのに」の略称であり、ひそかに好きだったあの子が自分が行動を起こす前に他の男と付き合ってしまったという悲しみや悔しさを描く、情けなさの極地のようなジャンルである。
さて、本作もそうした「BSS」を扱った一作なのだが、本作は、主人公が好きだったヒロインが他の男と付き合う程度の甘っちょろい内容ではない。なんと、ヒロインが他の男の彼女になる権利を争って、クラスメイトと髪切りデスマッチを行うのだ! しかも学校の教室で!
こんな狂気の沙汰を行っているヒロイン二人もどうかしているが、彼女たちの想い人である男子もどこかおかしいし、それを観戦するクラスメイトや教師も妙にアクが強い。登場人物全員がどうかしているのだ! 主人公だけは唯一、内心でツッコミを入れる冷静さを保っているが、この悪夢のような光景を止めに入るわけでもなく、黙って傍観しているあたりに、BSSというジャンルの醍醐味が詰まっている。特に、熱狂と絶望の果てに紡がれるラストの一文は、このジャンルでしか得られない独自の味わいがある。
全体的にギャグで溢れる内容となっており、本格的なBSSよりも笑って楽しく読める分、BSS入門編として最適な作品ともいえるかもしれない。また、タイトルのインパクトに負けない勢いのある、熱の入った内容となっており、BSSに興味がなくとも笑えるコメディを読みたい人には、文句なしにオススメできる一作だ。
(新作紹介「カクヨム金のたまご」/文=柿崎憲)